悪者と僕

その封筒を、最初に見つけたのは僕だった。
――これって、お母さん、封筒の中には、母の写真が入っていた。
すべては、この時から始まった。

僕が高校生になって初めての冬は、年が明けてからもっと寒くなって、その日は小雪がちらついていた。学校から帰った僕は、普段、気にもしない郵便受けに目がとまった。
大きな封筒が半分以上はみ出したまま、受け口に差し込まれていた。郵便受けから抜き取ってみると、表も裏も、その茶色の封筒には何も書かれていなかった。それに、封も糊付けされていなかった。
僕は早く家の中に入って、冷えきった体を温めたかったけれど、その得体の知れない封筒が、何だかとても気になった。


手袋をしていても、かじかんで震える指先で中身を探ると、その中から、母の写真が出てきた。
A4サイズで、二十枚近くあった写真には、すべて母が写っていた。
とっさに、僕は辺りを見回した。
誰かが、僕を見ているのではないかと思った。
でも、通りをはさんで家々が向かい合う新興住宅街に、人の姿はなかった。
手にした写真に、小雪の粒が舞い降りた。
母の顔に、白い粒がまとわり付いては、融けて消えていった。
僕の体が、ぶるっと震えた。
凍てつく寒さのせいなのか、それとも湧き起ってくる恐ろしさのせいなのか、きっとその両方で、僕の体が急に震えだした。

「お母さん、、お母さんっ、、」
家の中に飛び込んだ僕は、大きな声で叫んだ。
大変な物を見つけてしまった、そんな思いが僕を慌てさせた。
よほど僕の声に切迫感があったのか、母はすぐにやって来た。
しかしそれでも、ぱたぱたと廊下に響くスリッパの音は、いつものようにのんびりしたものだった。
台所にいたのか、母は緑色のエプロンで手を拭きながらやって来た。

「どうしたのよ春樹、、あら、雪降ってるの」
母は、僕の頭を見て、少し怒ったような顔した。
「だから言ったじゃないの、傘もって行きなさいって、、もう、」
廊下で僕と向き合った母は、僕の頭の上で、融けきっていない小雪の粒を払ってくれた。
僕の髪がくしゃくしゃになるくらい、少し乱暴に、何度も払ってくれた。

高校生になった僕を、いまだに子供扱いする母だった。
「風邪ひいたんじゃないの、あんた顔が蒼いわよ」僕の額に当てられた母の手は、とても暖かかった。
「よし、熱はないみたいね、、え、何よこれ」

僕が差し出した封筒を受け取った母は、その封筒と僕の顔を交互に見た。
その時きっと、僕は泣きそうな顔をしていたに違いない。
僕の表情から、何か不安を感じ取ったのか、母はその封筒をじっと見つめて、思い切ったようにさっと中身を取り出した。
「あら、、いやだわ、もう、退学処分のお知らせかと思ってひやひやしたわよ、何よこれ、、こんなものどこにあったのよ」

僕が説明する前に、母は含み笑いをもらしながら、一枚一枚めくっていた。
その封筒の経緯を話すと、なおさら母は面白がって、そのうちの一枚をひらひらと目の前にかざした。
「へえ、よく撮れてるわねえ、ふうん、敵はプロかも知れないわねえ、なるほど、ストーカー2号の登場ってとこかしら、ホントまいっちゃうわ」
僕を無視して、母はもう台所に向かっていた。
なんだか、僕は気が抜けてしまった。
かわりに腹が立った。

――なに言ってるんだよ、ストーカーっていうのは、もっと若い女を狙うんだぞ、ストーカーに狙われたことが自慢そうな母に、僕は腹が立った。
声を上げて笑っている母を見ると、僕はその封筒の中身で大騒ぎした自分が、馬鹿に思えてきた。

その写真は、母の日常を写したものだった。
スーパーで買い物する母の姿を写しただけの、ただそれだけの写真だった。
でも、玄関先で最初に見たとき、僕は本当に恐ろしくなった。
この頃は、とんでもなくイカレタ野郎が多い世の中だ。
最近よくニュースになる通り魔殺人、その標的に母がされたのではないかと心配した。
封筒の中身が、母を殺す予告状のような気がしてならなかった。
ただ、あきれるほど能天気な母を見ていると、そんなふうに母を心配した僕の頭のほうが、イカレているように思えてきた。

その封筒を食卓に置いたまま、母は煮物の火加減を見ていた。
楽しそうに晩ご飯の支度をする母を見ていると、本当にバカバカしくなってきた。
――僕もどうかしてるよ、通り魔殺人なんて、あるわけないよな、二階の自分の部屋に上がろうとした時、僕はふいに、母の言葉が気になった。

――さっきお母さん、ストーカー2号って、、僕は、台所の母に駆け寄った。
「お母さん、二号って、どういうこと、前にも何かあったの」
母は、ちょっと困ったような、それでもなんだか可笑しそうに僕を見た。
「そうよね、春樹は知らなかったのよね、あのね、、ここに引越して来たころね、、うふふ」

三年前、僕の家族はこの家に越してきた。
ちょっとお洒落な感じのする、この新しい住宅街を僕は気に入っていた。
「若い男の子がね、私のあとつけたり、家の前をうろうろしたり、私がその子に気づいて、二週間ぐらいしてからかしら、その子ね、『僕とつき合ってください』って、真剣に言ったのよ」

母は煮物をほったらかしにして、喋り続けた。
もう楽しくて仕方ない、そんな様子の母だった。
「道の真ん中で、いきなりなのよ、びっくりしたわ、でも私、そういうの慣れてるから、、さらっとかわして逃げたのよ」
母は煮物が気になったのか、鍋のふたを開けた。
そして僕に背を向けたまま、また話し始めた。

「でもね、その後もあまりしつこいから、お父さんに言ったの、そしたらね、あの人ったら顔を真赤にして怒っちゃって、家の前にいた男の子に文句言ったのよ、すごく怒って、、、信じられる、あのお父さんが本気で怒ったのよ」
鍋にふたをして火を弱めた母が、僕にふり向いた。
母は、本当に楽しそうだった。

「大学生みたいだったけれど、その子ね、背が高くて、わりとハンサムだったのよ、もうまいっちゃうわ、世の中の男はみんな私に夢中なんだから」
そう言った母も、さすがに照れたのか、少し顔を赤くして冷蔵庫を開けた。

「いやだわ、私ったら、春樹にこんなこと言って、心配しなくてもいいのよ、あれからあの子は来なくなったし」
それきり母は話をやめて、冷蔵庫から取り出したタッパーを開けて、晩ご飯の支度の続きを始めた。

どこかおっとりしたところのある母も、料理の手際だけは鮮やかだった。
僕はそんな母のうしろ姿を、不思議な思いで見つめた。
僕は、どうしてその大学生が、母を一人の女として見たのかよく分からなかった。
僕には、母と同じ年齢のおばさん達は、みんな一緒に思えた。
その中でどうして母が選ばれたのか、とても不思議だった。
確かに僕の母は、美人の部類に入るかも知れないけれど、そんなに目立つとは思えなかった。
別に派手な服を着るわけでもないし、髪型もごく普通にカールしてあるだけだった。
お化粧なんか、ちょっと口紅を引いて、はい終わりっていう感じだった。
だいたいストーカーなんて、若くて綺麗な女の人を狙うものだと思っていた。
僕があの写真を見つけた時、ストーカーなんて言葉、浮かんでもこなかった。

――お母さんのどこがいいんだろう母のどこに魅力があるのか、僕にはよく分からなかった。
僕が二階に上がろうとした時、電話が鳴った。
「ちょっと春樹、あんた出てよ」
台所にいる母は手が放せないらしく、一度、階段を上りかけた僕は、引き返してリビングの電話に出た。
その電話は最初、無言だった。
「もしもし、あの、どちら様ですか」
「、、、おまえ、息子か」
低くおさえた男の声がした。

――なんだよ、こいつ、いきなりそんな事を言ってきた相手に、僕はムッとした。
でも、日頃から、電話の応対だけはきちんとするようにと、母から厳しく言われている僕は、我慢して受話器をにぎり直した。
「あの、どちら様ですか」
「、、おまえ、上か、下か、どっちだ」
「えっ、、あのう、長男ですけど、、」
「お袋さん、いるか」

なんて奴だと思いながらも、僕は母を呼んだ。
相手がどんなに非礼な奴であっても、母へかかってきた電話を、僕が勝手に切るわけにもいかなかった。
僕はムッとしたまま、突き出すようにして、母へ受話器を渡した。

「もしもし、お電話かわりました、杉浦でございます」
母は相手にそう言ったあと、横に立つ僕を見て、なぜか嬉しそうに笑った。
「切れたわ、、でも夕方かかってきたのは初めてね、ねえ春樹、あんた声聞いたんでしょ、ねえ、どんな声だった」

母が言うには、今年なって何度か無言電話があったそうだ。
でもそれは、決まって昼過ぎで、夕方かかってきたのは今日が初めてだと言った。
僕が、下品なオッサンみたいだったと告げると、母はいかにも残念そうな顔をした。
「あら、若い子じゃなかったのね、ちょっとがっかりしたわ」
母は何事もなかったように、台所へ戻っていった。

僕はあきれてしまった。
普通、こういう時はもっと心配したり、怯えたりするのが当り前なのに、僕の母は、むしろそれを楽しんでいるように思えた。
危機感というものがまったくない、能天気な母に、僕は心底あきれた。
気楽な母を見ていると、つかのま僕も和んだ気持ちになったけれど、でも、あらためてその電話を思い出すと、僕はやっぱり不安になった。
男の声は、感情の波をまったく感じさせない、不気味なものだった。

――それに、あの写真、もし、電話の男があの写真に関わっているのなら、そう思うと、僕は一層不安になった。
僕たちの家族構成まで知っている男が、少なくとも一度はうちに来て、意図が不明の封筒を郵便受けに押し込んだ。
自分の姿は見せないで、母をレンズから覗く中年男。
やはり僕には、母の声だけを聞いてすぐに切ってしまう無言電話に、何か悪意があるとしか思えなかった。
新聞の社会面にある、いくつかの見出しが、僕の頭に浮かんだ。

晩ご飯の時間になって、僕が二階から下りてみると、父と弟はもう帰っていた。
秀才が集まることで有名な私立中学に通う弟を、僕はあまり好きではなかった。まだ中一のくせに、妙に大人びたところのある弟を、僕は疎ましく思っていた。

――あれ、まただ、食卓の準備をする母は、服を着替えていた。
母は、料亭の女将さんが着るような和服に着替えていた。
――また始まったよ、去年の夏は、隣のお姉さんから浴衣を借りてきて、それを着た。
年齢にそぐわない桃色の浴衣を着て、母は楽しそうにはしゃいでいた。
たまに、僕の母はそんな事をして、僕たち家族を驚かせた。
でも、驚くのは僕と父だけで、弟はしっかり母のペースに合わせていた。
『お母さん、よく似合うよ、とっても綺麗だよ』とか言って母を喜ばせた。
そんなとき母は、『あら、秋雄はいい子ねえ』と、弟に頬ずりした。
僕はそういう二人から目をそらした。
そんなことを、ぬけぬけと言える弟が、僕は嫌いだった。
その日は、和服を着た母のことを、弟は『お母さま』と呼んでいた。
きっと母に強制されたのだろうけれど、弟は照れもしないで、母の調子に合わせていた。

――― ――― ―――期末テストの初日が終って、昼過ぎに家へ帰った僕は、一人でラーメンを作った。
母はもう、スーパーへ買い物に行って家にいなかった。
食べている途中、電話が鳴った。

写真を見つけた日から、一ヶ月ほど過ぎていたけれど、その間、新たな封筒を、郵便受けに見ることはなかった。
でも無言電話は何度か、かかってきたようだった。
先週、僕が尋ねると、『たまにね』と、母は気にもしていなかった。
ひょっとしたら、と思った通り、その電話は、やっぱり最初、無言だった。

僕がその電話を叩き切ってやろうした時、突然
「おまえのお袋さん、いい女だ」
この前と同じ、抑揚のない、暗い声で男が言った。
気勢をそがれて、電話を切りそびれてしまった僕に、ふたたび男が言った。

「なんでおまえ、そこにいるんだ」
「テストなんだよっ、、」
答えるつもりは無かったのに、つい、男につられて喋ってしまった。
たて続けに男は、「おまえ、お袋さんのこと好きか」と僕に聞いてきた。

――あたりまえだろっ怒鳴ってやろうかと思った瞬間、電話が切れた。
僕は、なんとも腹が立ってしょうがなかった。
本当は、僕が先に切るはずの電話を、相手に切られてしまった。
バカバカしいとは思っても、勝負に負けたような口惜しさは、いつまでも残った。
その口惜しさは、あの日の夜のことを蘇えらせた。

写真を見つけた日、母が和服を着たあの日。
晩ご飯のとき、母と弟は楽しそうだった。
いつものように、そんな二人を見ているだけの父も、楽しそうだった。
弟が『お母さま、僕、塾のテストで百点取りました』と言えば、『まあ、秋雄さん、なんてお利口さんなんでしょう』と、母は優雅に笑った。
そういう芝居じみたやり取りに、僕はついて行けなかった。
本当は、一緒になって騒ぎたかったのに、僕にはできなかった。
なにか面白いことを口にしようとしても、頭の回転が鈍い僕には無理だった。
その夜も、僕は一人いじけてご飯を食べていた。
まだガキのくせに、弟の大人びた口ぶりが癪にさわった。

――もう、うるさい、僕は、あの写真と電話のことを父に告げた。
楽しい食卓に水を差すのを承知の上で、僕は父に言った。
父は、お酒に酔った顔を真赤にして、そのことを母に問いただした。
写真のことは当然としても、何度かあったはずの無言電話についても、父は初耳のようだった。

そのことで父は怒っていたけれど、でも、とても母を心配していた。
母が持ってきた写真を見ながら、『警察には連絡したのか、どうしてすぐに言わなかったんだ』と、怒っていた。
僕は食卓を白けさせてしまった。
弟が、僕を小ばかにしたような目で、ちらっと見た。
あいつの言いたいことは、分かっていた。
(間の悪い兄貴だぜ、今そんなこと言わなくてもいいだろ)
僕はそんな弟が、大嫌いだった。

―――  ―――  ―――  
期末テストの二日目、家に帰った僕は、買い物に行く母を見送ったあと、一人で昼食をとった。
僕の父は、写真の件を警察に届け出るべきだと強く言っていたけれど『そんな、大袈裟だわ』と嫌がる母に押し切られて、結局、警察には連絡していなかった。
その代り、用心のため、買い物に行く時間を早めるようにと、父は主張した。
父を安心させるためなのか、母はその言葉には従ったようだった。
それまでは夕方だった買い物の時間を、昼過ぎにずらしていた。
僕は、前日の電話を母に言わなかった。
男とのやり取りで負けた自分を、間抜けな息子だと母に思われたくなかった。
それに、母のことを『いい女だ』と、男が言った電話の中身を、口にするのはなんだか気恥ずかしかった。

僕が、食べた食器を片づけようとした時、電話が鳴った。
昨日と同じ時間だった。
僕は少し迷ったけれど、やっぱり出ることにした。
馬鹿やろう、そう言ってすぐに電話を切るつもりだった。
でも、どうせ最初は無言だろうと油断した僕に、男はいきなり声を出した。

「おまえ、馬鹿か」
不意をつかれた僕は、怒鳴ることも、電話を切ることもできなかった。
これまでと同じで、感情のこもらない、冷たい声だった。
「俺だと分かっていて、なぜ電話に出る」
――だったら電話してくるなっ、僕が怒鳴ろうとすると、すかさず、「おまえのお袋さん、いい女だ」と、男は前の日と同じことを言った。

「女も、若いころは誰でもみな、それなりによく見える、だが、三十、三十五を過ぎると、しだいに崩れてくる、四十になると、ほとんどすべての女は、ただの醜い生き物になる」

この日の男はよく喋った。
僕は電話を切るのも忘れて、男の話に聞き入った。
「そういう女たちの中で、おまえのお袋さんは、数少ない例外だ、スーパーにも男の店員がいるだろう、おまえ、知っているか、、やつらが、どんな目でお袋さんを見ているか」
暗く、沈みこんでいくような、男の声だった。

「夫婦連れでスーパーにやってきた亭主たちが、どんな目でお袋さんを見ているか、おまえは知らないだろう」
男が初めて「ふっ、」と笑った。
息をしただけなのかも知れないけれど、僕には男が笑ったように思えた。

「おまえ、こういう話が聞きたかったんじゃないのか、、、弟のほうは利口そうだが、、おまえは馬鹿だな」
僕が何も言えないまま、電話は切れた。
僕は自分が情けなくて、少し泣いてしまった。
なんだか、すごく口惜しかった。
弟と比較されて、それが事実だと僕も分かっているから、たまらなく悲しくなった。

僕の母は、有名な国立大学を出ていた。
高校生になって、その大学に入るのがどれほど難しいことなのか、いやというほど思い知った。
並みの努力と頭では、とても合格できない大学だった。
たぶん弟は、母の血をそっくり受け継いでいるのだと思う。
その反対に僕は、まるっきり父の二世だった。

母が和服を着たあの夜、白けてしまった食卓で、弟が母に尋ねた。
「どうしてお母さん、お父さんと結婚したの」
揚げ物を、箸でつまむついでに弟はそう言った。
自分の両親のなれ初めを、真剣に問う息子の姿ではなかった。
意味不明の写真と無言電話に、オロオロする父を蔑んでいるように思えた。
そして、いじけた僕には、(どうしてこんな奴が、僕の兄貴なの)と同時に言っているように聞えた。

そんな弟に、母はめずらしく怒った顔を見せ、姿勢を正して椅子に座りなおした。
「あなた達のお父さんは、誠実で、優しい人なのよ、そこらで格好つけてる男なんかより、はるかに立派な人なのよ」

母の実家では、その親戚の人たちも含めて、いまだに父と母の結婚を不思議がっていた。
事務用品の営業をしていた父が、大きな会社の総務部にいた母のところへ、ほとんど毎日のように、一年近く通いつめたというのは有名な話だった。

母の実家の人たちは、悪く言えば愚鈍にも見える父を、いつも冷遇した。
父とそっくりの僕も、あまり相手にされなかった。
でも、母の頭のよさを受け継いだ弟だけは、人気者だった。

あの夜、弟を叱るように、父の良さを説く母は、とても素敵に見えた。
そして母に諌められた弟を、ざまあみろ、と思った。
でも、やっぱり僕には不満が残った。
かりに叱る時でも、またどんな時でも、母は弟を、一人の人格を持った男と認めて、向き合っているように思えた。
しかし僕に対しては、いまだに、子供扱いしているように思えてならなかった。
ひがみだと分かっていも、僕は、ほんの少しだけ母を恨んだ。
そして、食卓に座る中学一年の大人びた弟に、憎しみの目を向けた。

電話の後、あの日の夜をまた思い出していた僕は、買い物から帰ってきた母に気づかなかった。
リビングと通しになっている台所から呼びかけられるまで、僕は立ったまま、ずっと目の前の電話を見つめていた。

「どうしたの春樹、またあの電話でもかかってきたの」
買ってきた物を冷蔵庫に入れながら、母はそう言った。
そんな母に、僕は不満をもった。
弟に話しかけるときは、必ず、きちんと顔を向けるくせに、どうして僕のときのは、こっちを見てくれないのだろうか。
僕のことなんか、何かのついでのように思われている気がした。
なんだか無性に悲しくなって、また涙ぐんでしまった。
僕は、何も言わずに、そのまま二階へ上がった。

―――  ―――  ―――
期末テストの三日目、その日は寒かったし、僕は急いで家に帰った。
試験の出来はいつも以上に最悪だったけれど、そんなことはどうでもよかった。
――今日こそ、どうせまた、あの男からかかってくるはずの電話に、僕は負けたくなかった。
今日こそ、あいつを怒鳴りつけてやろうと思った。
そして、(僕、電話の男をやっつけてやったよ)そう胸を張って母に言いたかった。

母が買い物に出かけたあと、僕は、あの写真をもう一度、見たくなった。
あの夜、ゴミ箱へ捨てようとした母に、『面白いからとっとけば』と、弟がリビングのマガジンラックに、その封筒を入れていた。

よく見ると、それらは写真ではなく、プリンターで印刷された画像だった。専用の紙にプリントされた画像は、写真と見まちがうほどだった。
きっとあの男が撮ったに違いない母の姿を、僕はじっくり見た。
よく撮れてはいたけれど、そのどれも、構図が少しずれていたり、斜めになっていたりした。
きちんとカメラを構えて撮ったのではなく、きっとカバンか何かの中へ巧妙に隠して、それで写したものと思われた。

そこには、楽しそうに買い物する、普通の主婦の姿が写っていた。
ほうれん草を手に取って確かめたり、カートを押しながら魚売り場に顔を向けたり、そんな姿ばかりだった。
ただ、日ごろ見慣れているはずなのに、こうした一瞬の姿を写し出された母は、とても新鮮に見えた。
いつも家にいるのが当り前の母を、僕はこれまでよく見ていなかったのかも知れない。

気づいた事が一つあった。
それは、意外なほど、母のスタイルはよく見えた。
世間の男達がどんな目で母を見ているのか、知っているかと男は僕に尋ねた。
きっとあいつは、母が色気をふりまく、ふしだらな女だと言いたかったのだろうけれど、全然そんなふうには見えなかった。

写っている母は、僕が知っている以上に、知的で、真面目な人に見えた。
タートルネックのセーターをかたどる胸元も、ロングスカートに包まれた腰つきも、全然いやらしさを感じなかった。
電話がかかってきたら、この事をはっきり言ってやろうと思った。

その日、かかってくるはずの時間に、電話は鳴らなかった。
母の帰りも、少し遅れているような気がした。
僕は、帰りの遅い母を心配した。
スーパーの駐車場で、風になびく髪を片手で押さえ、車のドアにキイを差しこむ瞬間を写された母の横顔を見ながら、僕は不安になった。
母が事故を起こしたのではないかと心配した。
悪い知らせがありはしないかと、僕はびくびくしながら、電話を見つめた。

もう、あの男のことなんか、どうでもよかった。
家の外が暗くなっても、母は帰ってこなかった。
ガレージは、からっぽだった。
携帯電話を持っていない母には連絡の取りようがなかった。
何か急用ができて寄り道しているのか、――それとも、大破した車と、血まみれになった母を、縁起でもなく思い浮かべてしまった。
ただ、そのいずれにしても、連絡があるはずだった。
僕は、父の会社に電話しようかと思った。
最近の父は仕事が忙しいらしくて、いつも遅くに帰ってきた。
もし六時を過ぎても母が戻らなければ、その時は父に電話しようと思った。

母は、僕が父に電話をする前に、帰って来た。
静まり返った家の中で、僕は玄関のタイルに響く、硬い靴音を聞いた。
ハイヒールの音だと思って行ってみると、やはり母だった。
僕は本当にほっとした。

でも、母の様子は少し変だった。
出迎えた僕から、母は顔をそらした。
コートの合せ目をしっかり握る母の右手が、震えていた。

「、、ご免なさい、、外は、寒かったから、、」
僕がどうして遅くなったのか尋ねる前に、母はかすれた声でそう言った。そして、ハイヒールを脱ぎ捨てるようにして家に上がると、僕のわきをすり抜けて、スーパーの買い物袋を持ったまま洗面所に向かった。
すぐに、その洗面所からは、いかにも苦しそうに、むせかえって胃の中のものを吐く、母の様子が聞えてきた。

僕は心配になって、廊下を走って洗面所に行った。
「来ないでっ」これまで聞いたこともない、もの凄く怒った声で母が叫んだ。
母の背中をさすってあげるつもりだった僕は、突然きつく叱られて、ただ怯えてしまい、洗面所からあとずさった。
母はそのまま、お風呂に入ったようだった。

――そんなに怒らなくてもいいじゃないか、よほど体の具合が悪いのか、玄関で見た母の顔は真っ青だったし、唇は紫色になっていた。
それに目は、泣いたあとのように充血して潤んでいた。
でも、いくら気分の悪いところを見られたからって、親子なんだから、あんなに怒鳴らなくてもいいのに、と僕は思った。
遅く帰ってきた理由や、すぐにお風呂に入る訳を考える前に、僕は、そんな母に腹を立てた。

そんな時、リビングの電話が鳴った。
耳障りに響くコール音を早く止めたくて、乱暴に受話器をとった僕は、ぶっきらぼうに「はい、杉浦です」と答えた。

「お袋さん、帰って来たか」あの男からだった。
今日こそ、と思っていた電話だったけれど、なんだかこの男を相手にする気分ではなかった。
訳もなく母に叱られて、僕は苛々していた。
「おまえのお袋さん、いい体をしていた」

――こいつ、なに言ってるんだ、男の声には、相変わらず抑揚がなかった。
「締まりも良かったし、肛門は初めてみたいだったな」
――シマリ、コウモンって何だ、母のことを言っているのは分かったけれど、すぐには、その単語の意味を理解できなかった。
「フェラは下手くそだったが、そのぶん、顎がしびれるまでさせてやった」

僕の頭が、急に熱くなった。
――コウモンって、お尻の、、フェラって、口でするあの、とっさに僕は「おまえ、まさかっ」と叫んでしまった。
そんな僕の怒りの声にも、あの男は平然としていた。

「、、たっぷり、楽しませてもらったぞ」
「おまえ、よくも僕のお母さんをっ、、」
「そんなに怒るな、おまえだって、興奮しているだろう、うずうずと血が騒いで、もう勃起しているんじゃないのか」

僕は「ふざけるなっ」とまた叫んだ。
冗談じゃない、母親をレイプされて悦ぶ息子がどこにいる、そう言ってやりたかったけれど、頭に血が昇っていた僕は一言、そう叫ぶのがやっとだった。

「坊ず、嘘をつくな、おまえのように弱くて、いじけた奴は、皆そうなる」
あいつは、人の悲しみや嘆きを、嘲笑って楽しむ恐ろしい男だった。
「おい坊ず、おまえ、見たいと思わないか美人の母親が犯される姿を、見てみたいだろう、欲しかったら、いくらでも印刷してやるぞ、、」
レイプされる母の姿。
僕の心臓が、変な間隔で脈動した。

――そんなもの、母親の不幸を見たい奴なんているもんか、そう思ったけれど、僕はその時、とても息苦しくなった。
「もし俺が、警察に捕まっていなければ、見せてやる、いつでもいいぞ、電話してこい、俺の携帯の番号は‐‐‐‐‐、」
僕の右手が、勝手に動いた。電話の横にある小さなメモ帳に、その番号を書いてしまった。
間違えないように、それでも素早く数字を書いていく自分が、そこにいた。

男からの電話が切れたあと、僕は荒い呼吸を繰り返しながら、メモ用紙を呆然と見つめた。
まぎれもなく自分が書いたはずの数字を、信じられない思いで見つめた。
あの日から、僕は僕でなくなってしまった。

男からの衝撃的な電話のあと、しばらくして、母はお風呂から出てきた。
スーパーの袋を持って台所に現れた母は、買い物に出かけた時とは、まるで違う服を着ていた。
僕には、母の魂が抜けているように見えた。
お風呂上りなのに真っ青な顔をして、冷蔵庫に買ってきた物を納めていた。

いつもは楽しそうに、買ってきた物を一つ一つ確かめて冷蔵庫に入れる母が、なんだか違う所に視線を漂わせて、卵のパックを、そして野菜を手に取っていた。

「お母さん」近づいても、声をかけるまで僕に気づかなかった母が、びくっと手を止めた。
嘘のような電話に逆上し、混乱していた僕も、あらためて母を見たとき、あの男の言葉を、現実のものとして受け止めた。
母の手首には、何かを巻きつけられた痕が刻まれていた。
母は、僕の目線を気にしてなのか、その赤い痕をセーターの袖口でそっと隠した。
「少し、気分が悪くて、、」その身を隠すように、小さな声で母は言った。

――やっぱり本当なんだ、本当にお母さんは、僕は何も言えずに、黙って自分の部屋に向かった。
僕は初めて、母を想いながらマスターベーションをした。
部屋の中で、母の姿と男の声を思い出すと、むくむくとペニスが勃起してきた。それを抑えることは、僕にはできなかった。
母は、日ごろ履かない靴下を履いていた。
きっと足首にも、もしかしたら体中にロープの痕があるのかも知れなかった。

――お母さん、縛られて、想像し始めると、もう止められなかった。
恥ずかしい姿でレイプされる母、経験があるはずのない肛門までも犯され、、そして顎がしびれるまでフェラチオを強制された母。
あの男の言った通り、僕は情けない息子だった。
僕は血をたぎらせ、固くなったペニスをしごき続けた。

晩ご飯になって、僕が一階に下りて行くと、塾から帰った弟が、すでに食事を始めていた。
父はその日も遅いらしく、僕たちは三人で晩ご飯を食べた。
当り前かも知れないけれど、母は、ほとんど料理に手をつけなかった。
暗く沈みこんだ表情で、皿の上で止めた箸を見つめていた。

「お母さん、どうしたの」その姿を心配したのか、弟が口の中にご飯を入れたまま尋ねた。
母は「少し、気分が悪くて、、」と、さっき僕に言ったことを繰り返した。
それでも、母はつかのま笑顔を見せた。
きっと死ぬほど辛いはずなのに、僕たちの夕食を作り、食事の世話をしてくれる母だった。こんな時でも家庭の主婦として、その役目をきちんと果たす母が立派に思えた。
息子を心配させまいと笑顔を作る母が、とても強い人に見えた。

でも、そんな母がレイプされた事実は、どうしようもなく、僕の血をうずうずとたぎらせた。
その夜、僕は勝手口にある大きなポリバケツをあさった。
僕の姿は、残飯をあさる野良猫のようだったかも知れない。
もしかしたら、と思った通り、黒いビニールのゴミ袋の中に、昼間、母が着ていた服が入っていた。
街灯の薄明かりの下で、手にとって見ると、それらは無惨なものになっていた。

セーターの肩口や胸元、それにスカートは裾から斜めに、切り裂かれていた。
なめらかな手触りのスリップも、一方の肩ひもが千切れていた。
もっと別なもの、母の下着がありはしないかと、僕は袋の中をさらに探った。
でも、母のブラジャーもパンティーも、その中にはなかった。
あの男に奪われたままなのか、それとも切り刻まれて用を成さなくなったのか、そのどちらにしても、家に帰ってきた母は、コートの下にみじめな姿を隠していたのだった。

三月になっても、寒い夜だった。
しかし、吹きつける冷たい風を感じないほどに、僕の全身は熱くなった。
日が経つにつれて、どんどん僕が僕でなくなっていった。
母は、自分の身に起きた災難を誰にも言っていないようだった。
父は相変わらずお人好しのままで、ご飯の時も楽しそうに笑っていた。
家族の前では、母もいつもと変わらずにふる舞っていた。
でも、母の笑顔が作り笑いであることを、そして時おり見せる暗い表情の理由を、僕だけが知っていた。
手首の赤い痕、切り裂かれた衣服、それらは、僕の想像を限りなく淫らで残酷なものにした。

――見てみたい、どんな姿でレイプされ、そのとき母がどんな顔をしていたのか、見たくてたまらなかった。
部屋の中で、僕は、小さなメモ用紙を繰り返し、何度も見た。
そこに記されているのは、ただの数字の羅列ではなかった。
その数字は、僕のドロドロした欲求を満たす、母の無惨な姿につながっていた。

十日ほど経った火曜日、一時限目の授業の最中に、僕はどうにも我慢ができなくなった。
古文の先生のスカートが、あの切り裂かれた母のスカートと同じ色だった。
――お母さんは、あのスカートを破られて、形もよく似ていたし、そのスカートを目の前にした僕は、ついに自分を見失った。

頭が痛いと嘘をついて、僕は学校を早退した。
実際、僕の顔は病的なまでに憔悴していたのか、普段は厳しい担任の先生も『おまえ、一人で帰れるか』と、心配してくれた。
僕は、電話ボックスに駆けこみ、今はもう暗記してしまった数字を押した。
それが母を裏切り、また、自分という人間をも貶める行為だと分かっていても、止められなかった。
あの男に笑われ、どれだけ馬鹿にされようとも、僕は辱しめを受ける母の姿を、見たくてたまらなかった。

「おう、坊ずか」最初に僕が「あの、、」と言っただけで、男には分かったようだった。
あの男は無駄なことを一切言わず、電車の駅名を僕に告げた。
それは、いつも僕が乗降りする駅から、一つだけ隣りの駅だった。
意外なほど、あの男は近くに住んでいた。
僕がその駅の改札口を出ると、一人の男がすうっと僕に近寄ってきた。
みすぼらしい作業服を着た、中年男だった。

「行くぞ、坊ず」と、それだけ言うと、男は先になって歩き始めた。
男は、僕のことを笑ったり、からかったりしなかった。
そのかわり、歩きながら、独り言のように話し始めた。
「お袋さん、警察には言わなかったみたいだな」
電話と同じで、男の声に抑揚はなかった。

「犯された女が訴えるかどうか、それは俺にも分からん、たぶん犯された本人も、そのあとで自分がどういう女か、気づくはずだ、秘密を背負って生きていく女もいれば、裁判所で自分の受けた恥を口にする女もいる、俺は犯るとき、サツに捕まるのはいつも覚悟している」

男は、これまでに十人以上の女性をレイプし、そして刑務所に四回、入れられたと言った。
僕の前を行く男の後姿は、冷たい声とは不釣合いなほど、ずんぐりしていた。
滑稽なほどに小太りの男が、急に立ち止って、僕にふり向いた。

「俺もな、犯るときは、命をかけるんだぞ」
男は、立ち止ったその場所で、母の運転する車の前に飛び出したと言った。
狭い十字路だったけれど、確かに一歩間違えば、骨折だけでは済みそうに思えなかった。

「思っていた通り、おまえのお袋さんは真面目で親切だった、誰が見ても、俺のほうが悪いのは明らかだったが、尻もちをついて唸る俺を、必死に抱き起こしてくれてな、見ろ、こんな薄汚い服を着た俺に、大そう優しくしてくれたぞ」

『すぐに病院へ』、そう心配する母の車に乗った男は、心臓の薬を部屋に置いたままだと嘘をついて、母をアパートに誘い込んだらしい。
その十字路を曲がってしばらく歩くと、男の住むアパートがあった。
周囲の住宅やマンションとはまるで違う、木造の古いアパートだった。
僕はこういうアパートを初めて見た。
板張りの廊下をはさんで、その両側に部屋のドアが並んでいた。
廊下を歩くとみしみしと音がして、それになんだか公衆便所のような臭いがした。

「おまえのお袋さん、嫌な顔ひとつしないで、足を引きずる俺を支えてくれてな、部屋の中にまで、入って来てくれたぞ」
ドアを開けた男に続いて、僕はその部屋に入った。
そこは、僕の部屋よりも狭い空間だった。
トイレも風呂も、そして台所もなかった。
黄ばんだカーテンが閉じられたままの薄暗い部屋に、男が蛍光灯をつけた。

赤茶けた畳の上には、汚い布団が敷かれたままだった。
家具らしいものは、古い洋服ダンスが一つあるだけだった。
コンビニ弁当のからや、雑誌が散らばる部屋の中は、饐えた臭いに満ちていた。

「さすがの俺もな、あんなに優しい女を襲うのは、少し気が引けたが、、今のおまえと一緒だ、欲望には勝てないもんだ」
僕は、汚い部屋の隅にそこだけ違和感のある物を見た。
最新機種と思われるノートパソコンとプリンターが、並べて置いてあった。
男はそこから印刷された用紙の束をつかみ取り、敷布団の上にどさっと置いた。

「おまえが望んでいたものだ、まあゆっくり楽しめ」
それだけ言うと、男は部屋から出て行った。
一人、部屋に立ちすくむ僕の足元には、母の姿があった。
僕はしゃがみこんで、最初の一枚に手を伸ばした。
そして一端、部屋の壁を見上げた。
当然だけれども、写っている場所と同じ所に、太い釘が打ちつけられていた。

僕が手にした画像の中で母の両手を縛ったロープが、その太い釘に巻かれていた。
両手を頭上で縛られた母が、壁を背にして立たされていた。
自由を奪われるまで、よほど抵抗したのか、母の髪はものすごく乱れていた。
でも、カメラのレンズから逃れようと、顔をそむける母の衣服には、まだ異常はなかった。
最初の一枚目に写っていた母の服は、出かけた時と同じままだった。

――これから、始まるんだ足がガクガク震えて、しゃがみこんだ体を支えきれなくなった。
僕はあぐらをかいて敷布団の上に座ると、次の画像を手にとった。
母の顔がアップで写っていた。
何かを耐えるように、目を閉じる母の顔だった。
何枚か、そんな母の表情を写したものが続いたあと、ぱっと構図が変わった。

――あっ、お母さん、最初の一枚目と同じアングルだったけれど、母の衣服に違いがあった。
セーターの胸元が切り裂かれ、そこから片方の乳房が露出していた。
そして母の両膝には、白いパンティーが絡まっていた。
下から斜めに切り裂かれたスカートがめくられて、太腿と、その上にある陰毛のかげりが垣間見えていた。

でも、そんな姿を写したのは一枚きりで、また、母の顔をアップで写したものが何枚も続いた。
ただ、それらは写した場所が違っていて、僕があぐらをかく敷布団の上で写されていた。
母は、髪をふり乱して叫んでいた。
たて続けにシャッターを押したのか、一枚一枚つながりがあるように見えた。
右に左に、顔をふりながら、母は何かを叫んでいた。

カメラを持つ手がぶれるのか、どの構図も乱雑で、母の顔が斜めになったり、片方の表情が写っていなかったりした。
僕の母は、のけぞって白い首すじを見せ、必死に何かを叫んでいた。
それからずっと、母の顔ばかり写したものが続いた。
何かを耐え忍ぶように、唇を噛みしめて、固く目を閉じる母の顔もあった。
その閉じた目から、涙がこぼれていた。
そんな母の表情は、どの一枚も僕を興奮させたけれど、束になった紙をいくらめくっても同じものが続き、僕は少し不満を持った。

最後の二枚だけは、全裸の母が縛られている姿だった。
左右それぞれの手首と足首を一緒に縛られて、いびつに体を折りまげていた。
そんな母の姿を、横から写したものだった。
一枚は、敷布団の上に仰向けに転がされて、足の裏を真上に向けていた。
もう一枚は、うつ伏せにされたもので、極端なほど、お尻を高く突き出していた。

僕は、こういう姿の母を見たかったのだけれど、やはり不満が残った。
もっと直接的で、あからさまな姿を見たかった。
母の性器がどんな色と形をしているのか知りたかった。
その性器に男根が入っている様子や、肛門を突き刺された瞬間も見てみたかった。
それに、フェラチオを強制される母の顔にも興味をそそられた。

男が置いていった束のなかに、そんな画像は一切なかった。
学生ズボンの中でペニスは勃起していたけれど、やるせない不満で苛々する僕は、マスターベーションをする気になれなかった。

――あいつ、わざと、あの男は人の心を弄んで喜ぶ奴だ、それくらい僕にも分かっていた。
きっとほかにもあるはずだ、そう思って、僕は部屋の隅に置かれたノートパソコンに目を向けた。
よほど自分で電源を入れて、中身を覗こうかと思った。
そんな時、あの男が戻ってきた。

「なんだ坊ずその顔は、気に入らなかったのか」
僕の顔を見て、男はそんなふうに言ったけれど、別になんとも思っていないようだった。
でも「こんな物もあるぞ」と、洋服ダンスの扉を開けた。
男が手にした透明なビニール袋には、母のブラジャーとパンティーが入っていた。

「あんな美人でも、股の間は汚してるもんだ」
男は袋を開けて、白いパンティーを裏返すと、それを僕に向かって放り投げた。
あの母らしい、ほとんど飾りけのない下着だった。
そこには、乾いて灰色になった縦ジミが付いていた。

「そのシミなんか、上品なもんだぞ、すこぶる美人でも、ひどいのになると、べっとり滓りものをつけてやがるからな」
ほんの微かに、酸っぱいような匂いを嗅ぐ僕の頭に、ブラジャーが落ちてきた。
そのブラジャーは、両方の肩ひもが千切れていた。

「あのな坊ず、もろ見えの写真など、俺の趣味に合わんのだ、まあしかし、ひょっとしたら、実物が見れるかもしれないぞ」

これまで男は、一度レイプした女性には、二度と手を出さなかったそうだ。でも、僕の母は別だと言った。
そして「おまえという小道具もあるしな」と、無気味に笑った。

男は外に出ている間に、僕の母へ電話したようだった。
「ここへ来るか来ないか、やはり俺にも分からん、もしかしたら、これをきっかけに、もう警察へ電話しているかもな、おまえのお袋さんの代わりに、サツがここへやって来るかも知れん」

男は平然としていた。
僕は、なんだか恐ろしくなってきた。
警察がやって来るのも恐かったけれど、それ以上に、母がこの場にやって来たらどうしようかと恐くなった。
こんな所にいる僕を、母はなんと思うだろう。
そして僕には、こんな所で母と向き合う勇気などあるはずもなかった。

「かりに、お袋さんが来るとしても、それは俺を殺しにやって来るのかも知れんな、人間は、特に女は、その時になってみないと、よく分からん」男は、また無気味に笑って「まあ、覚悟はできてるがな」と、つけ加えた。

僕はますます恐ろしくなってきた。
今ならまだ間に合う、すぐに帰ろうと思った。
僕は、本当にそう思った。

でも、男が「おや、誰か来たようだな」と、僕よりも早くその靴音を耳にした。
板張りの廊下に響く硬い靴音が、ゆっくり近づいてきた。
古い木造アパートの部屋には、それが、たぶんハイヒールの音だと分かるほど、よく響いてきた。
僕はどうしたらいいのか慌ててしまい、すがるように男を見た。
そんな僕を無視して、男は部屋のドアをじっと見ていた。
靴音が部屋の前で止まったきり、何も起こらなかったけれど、でも、しばらくするとドアがノックされた。
弱々しいノックの音だった。

「おまえはこの中にいろ、心配するな、俺がうまくやってやる」
小声で言った男は、僕を古い洋服ダンスに押し込んだ。
その中は汗臭くて、息苦しかったけれど、ほんの少し扉を開いただけで、狭い部屋の様子が見渡せた。
ドアを開けた男が「よく来たな、奥さん」と言った通り、部屋の入口には、朝ご飯の時と同じ服を着た、僕の母が立っていた。

「、、あの、今はこれが精一杯なんです、どうか、これで堪忍してください、、」
いつも家で耳にする、まぎれもない母の声だった。
でも、『世の中の男はみんな私に夢中なの』と、明るく言ってのけた母とは、まるで別人のようだった。
母は、部屋に入るのを拒むように、手にした厚みのある封筒を差し出した。

「そうか、分かった、奥さん、俺に抱かれるのが嫌なら、さっさと帰りな」男はそう言って、躊躇いもなくドアを閉めた。
――あっ、お母さんが帰ってしまう――、つい僕はそう思ってしまった。
さっきまでは怯えていた僕の、それが本音だったのかも知れない。
閉じたままのドアを、タンスの隙間から見つめる僕は、なんで閉めたんだ――、またそう思ってしまった。

ただ、男はドアの前から離れなかった。
帰っていく母の靴音も、聞えてこなかった。
ずいぶん経って、ドアがゆっくりと開いた。
「奥さん、覚悟は出来たようだな、さっ、入りな」
うつむいてドアを開けた母の手を、あの男は力強く引いた。

自分でドアを開けた母は、それでも男を拒み「待ってください」と必死に訴えた。
「本当に、今日で終わりなんですか」
「奥さん、俺は約束は守る、この前も、中には出さなかっただろう、俺は言ったことは必ず守る、、奥さん、今日で最後だ」
その言葉で、母の力が抜けたように見えた。

男に手を引かれる母は、ハイヒールを脱ぐと、虚ろな表情で部屋に入った。
母の顔は暗かったけれど、それでも母が入ってくると、この薄汚い部屋も華やいで見えた。
部屋の中央で、男はすぐに母の服へ手をかけた。
ふわふわした生地の桜色をしたセーターが、胸元までたくし上げられた。
母はまったく逆らわなかったし、脱がされる時、自ら腕を上げた。

「いい匂いがするじゃないか、奥さん、あんた出がけにシャワーでも浴びたようだな」
男は膝を曲げてロングスカートのホックに手をかけ
「この前、マンコと肛門の匂いを笑われて、恥ずかしかったのか」と、楽しむように母を見上げた。
「笑われないように、しっかり洗ってきたのか」身をよじって胸元に両手をおく母が、その顔を赤らめた。

ロングスカートが足元にすべり落ちたあと、男はレースの飾りがついたスリップをまくって、ストッキングを脱がせた。
そのあいだ男は「あれから旦那には抱かれたか」と、母に尋ねた。
母は、力なく首を横にふった。

母は、男の言い成りになっていた。
スリップの肩ひもに男の指がかかると、母は自ら両腕を下げた。
小太りの男が側にいるから余計に、母の体は細く見えた。
ただ、母の腰だけは、そこだけ別な物のように、ベージュのパンティーを張りつめさせていた。

男が、タンスに隠れる僕のほうにやって来た。
扉を開けるのかと思って、僕は慌てたけれど、そうではなかった。
男は腰をかがめて、下の引出しを開けたようだった。
あの日の記憶が蘇えるのか、それを見た母が怯えて後ずさった。

「そんなもの、使わないでくださいっ」
男は、使い込まれて黒くなったロープを手にしていた。
近づく男から逃れようと、母は壁際まで後ずさった。
男は、「今日で最後だ」と冷たく言って、嫌がる母の手首にロープを巻きつけた。
この部屋で、僕が最初に見た画像のように、母の両手首が、壁の太い釘に括られた。
そして男は、両腕を上げた母に目隠しをした。

「どうして、こんな、、」目隠しをされて不安がる母に、男は「近所の小僧がな」と言った。
「おい、もう出てきてもいいぞ」
まさかこんな成り行きになるとは思っていなかった。
いきなり男に声をかけられて、僕は戸惑ったけれど、「早く来い」と促されて、嫌な匂いのこもるタンスの扉をあけた。

母は「約束が違いますっ」と男を非難し、僕が近づいて行くと、もう一人の人間の気配を感じたのか、「誰、、誰なの」と怯えた声で、目隠しをされて見えない目を、僕に向けた。
ブラジャーとパンティーだけを身につけた母は、体を横にねじって、新たな凌辱者の視線から逃れようとした。

「今日で最後なのは嘘じゃないが、奥さん、今日は童貞のガキの、相手をしてやってくれ」
「そんな、、」

両腕を上げた母の腋は、わずかに毛根が見える程度で、綺麗に手入れされていた。
ブラジャーに包まれた胸は、幼い頃の記憶の通り、あまり大きくはなった。でも、横向きになって細く見えるウエストとは違って、お尻の丸みは、タンスの中から見たときよりも、重そうな形をしていた。
僕は、母の体に触れたくて堪らなくなった。

「坊ず、おまえの好きにしろ」
母の目が見えないと分かっているから、僕は大胆になれた。
ブラジャーを乱暴に押し上げて、母の乳房をもみ、乳首を吸った。
母は、僕をふり切ろうと、体を左右によじった。
それでも僕は、母の乳房をつかんで放さなかった。

男は、そんな僕を無視して、「奥さん、あんた、旦那の他に何人の男を知っている」と母に尋ねた。
乳房をもむ僕の力が強すぎるのか、母は時おり「うっ」と苦痛を訴えるばかりで、男の問いには答えなかった。

「こいつも、自分の初めての相手が、どんな女なのか気になるだろうしな、別に嘘でもいいじゃないか、奥さんの口から出た言葉を、こいつが信じれば、それでいいだけの話だ」
何度も男に尋ねられ、母は拒みきれないと諦めたのか「ふ、二人です」と答えた。
僕はドキッとして、なおさら強く乳房をつかんでしまった。

また、「うっ」と痛みに耐える母に、男は「そいつらは浮気の相手か」と尋ねた。
この時ばかりは母も、すぐに答えた。
「私はそんな女じゃありませんっ」

僕が赤ちゃんのとき吸ったはずの乳首が、固くなってきた。
母は、何もかも諦めたように、男の問いに答え始めた。
僕に乳首をいじられながら、初めての時は「大学二年の時です」と答え、二人目の相手は「会社の、同期の人です」と小さな声で言った。
「そいつらには、フェラチオをしてやったのか」と、男に訊かれた母が、しばらくためらって「、、しました」と言った時、僕はかっと熱くなった。

パンティーに両手をかけると、思いっきり力を入れて引き下げた。
下着を奪われた母は、片足をくの字に曲げて股間を隠そうとした。
「奥さん、下着をはき替えて来たようだな、今日はパンティーが汚れてないじゃないか」

僕が脱がしたパンティーを、男は手に取って裏返した。
そして男は、「綺麗に洗ったところを、小僧に見せてやれ」と、くの字に曲げた母の膝を両手でつかみ、もの凄い力で引き上げた。
しかも、引き上げただけではなく、膝が壁にぴったり当たるまで、その片足を割り広げた。
体を支えるもう一方の母の足が、ぶるぶると震え、太腿が引き攣っていた。

僕たち高校生の間でも、裏ビデオや、いわゆるモロ画像など、大して珍しいものではなかったし、僕も何度か観たことがあった。
でも、初めて実物をまじかで見ると、しかもそれが母の性器であるだけに、僕はなんだかショックを受けた。
母の乳首は小さくて、全然いやらしさを感じなかったのに、その性器は、醜くいほどいやらしく見えて、とても母のものとは思えなかった。

「奥さん、オナニーは、いつもどんなふうにするんだ」
母の膝を抱えて、その膝を壁に押しつける男が、またしつこく尋ね始めた。
恥ずかしい姿にされた母は、ただ顔をそむけるばかりだった。
綺麗に手入れされていた腋とは違って、母の股間は陰毛にびっしりと覆われ、性器の周りをふち取っていた。
びらびらした黒い陰唇が割れて、その中の生々しい構造が見えていた。

「奥さん、どうなんだ、道具でも使っているのか」
白い半透明の膜に覆われて、その中身が醜く光っているように見えた。
ぷっくりと膨らんだクリトリスも、うねるように肉がより合わさった膣口も、赤くただれて光っていた。
僕は、男の声を聞きながら、母の性器に顔を近づけた。
男は執拗に問いただしていたけれど、母の声は聞えてこなかった。
石鹸のいい匂いに混じって、生臭い匂いがした。
母の匂いを嗅いでいると、ふいに「、、指で」という母の声がした。

――えっ、お母さん、いま何て、
「もっとはっきり言え、指でどうするんだ、奥さん」
「、、指で、、さすって」

僕には信じられなかった。
能天気で、弟と冗談を言い合っては笑い転げていた母がオナニーをするなんて、いつも僕たちのために料理を作ってくれるその指で、母がこっそりオナニーをしていたなんて、僕には信じられなかった。
男に脅されて、母はきっと嘘をついているのだと思った。

さらに男に問われて、母は「、、指は、、二本、入れて」と、恥ずかしそうに答えた。
そういう女性の秘密まで口にさせられる母が可哀想になったけれど、さっきから勃起し続けているペニスが、さらに熱く、固くなってきた。
僕の目の前にある、母の膣にペニスを入れたくて堪らなくなった。

「なんだ坊ず、やりたくなったのか」
ズボンとパンツを脱ぐ僕を見て、男は「寝てやるよりもな、初めての奴はこの方が簡単だ」と、さらに母の片足を高く上げて、股間を割り広げた。
そして男は、片手で母の膝を抱えたまま、作業服のポケットから、小さな四角い包みを取り出した。
「ほら坊ず、これをつけな」
コンドームの包みを見た僕は、首を横に振った。
それがどんな結果になろうと、僕は何もつけないでペニスを入れたかった。

「おまえ馬鹿か、童貞のおまえが、途中で抜いて、外に出せるわけがないだろう」
それでも僕は、激しく首を横に振った。
「奥さん、この小僧がナマでしたいと言っている、こいつは中で出すだろうが、不運と思って諦めてくれ」

母は、恥ずかしい言葉を口にさせられて、心が傷ついているのか、うつむいたままだった。
目隠しをした紺色の帯が、涙で滲んでいた。
でも、僕がすぐ側まで近づくと、はっと顔を上げた。
意外にしっかりとした声で「あなたは、いくつなの」と、僕に顔を向けた。
僕の代わりに、男が「こいつは十六だ」と答えた。

「大人になったら、あなたは今日のことを、きっと後悔するわ」そう言って母は、顔を伏せた。
なんと言われようと、もう僕は止められなかった。
ペニスの先が膣に触れた時、母の体がビクッと震えた。

男が言った通り、簡単だった。
立って母と向かい合ったまま、ただ、腰を前に出すだけでよかった。
母の膣は、ほとんど濡れていなかったけれど、ペニスの先からあふれる透明なぬめりで、腰を突き出すと、ズブッと中に入った。
母は「うっ」と、呻いて、その身を固くした。
さらに僕が突き入れると、「んっっ」と、苦しそうにのけぞった。

あれほど醜い形をしていた母の性器が、こんなに気持ちいいものだとは思ってもいなかった。
初めて女性の体にペニスを埋めた僕は、その心地良さに酔いしれた。
すぐに射精してしまうだろうと思っていたけれど、僕は自分でも驚くほど長続きしたし、母の膣内を味わう余裕もあった。
でも、油断して、なまじ動いたのがいけなかった。
あっという間に出そうになった。

射精の瞬間、痺れる快楽で自分を見失った僕は、母にしがみついて声を出してしまった。
「お、お母さんっ」
母の乳房に顔を埋めた僕は「春樹、、あなた春樹なの」という、虚ろな母の声を聞いた。

そんなつもりは無かったのに、僕は、母の目隠しを解いてしまった。
「春樹、、」僕と目が合った母は、この現実を忘れたかのように、小首をかしげて僕を見た。
でも、それもほんの一瞬で、すぐに母は「いやーっ」と叫んだ。

「どうして、、春樹っ、いやーっ」突然、母は暴れ始めた。
そんな母をしっかり抱きしめていると、しぼみかけていた僕のペニスが、母の膣内でまた固くなった。
僕の頭の中が、真っ白になった。
僕は下から母を突き上げた。
僕の精子でぬるぬるした膣を、思いっきり力をこめて、何度も突き上げた。
そのたびに母は叫び、涙をまき散らした。

いつしか男は、僕と母のそばから離れていた。
僕は自分で、母の片足を担ぎ上げて、腰を使っていた。
僕は、二度、射精したはずだったけれど、ペニスはすぐに固くなった。
そのペニスで、何度も母を突き上げた。
その頃になると、母はもう全身の力をすべて抜いていた。
僕が力強く突くたびに「うっ」、「うっ」と、哀しそうに息をつまらせていた。

三度目の射精のあと、僕が疲れ果てて座り込んでしまうと、今度は、汚い作業服を着た男が、母に近づいて行った。
汚い布団にへたり込んだ僕には、母が気を失なっているように見えた。
まるで処刑された罪人のように、ぐったりとうな垂れていた。
縛られた両手を高くかかげて、その体を斜めに傾けていた。
小太りの男は、髪を乱して顔を伏せる母に近づくと、その表情を下から覗きこんだ。

「奥さん、どんな気分だ」
男は下から顔を寄せて、何も答えない母の表情を楽しんでいた。
そしていきなり母の髪をつかむと、ぐっと顔を仰向かせた。

「どうなんだ奥さん、息子に犯された気分は」
男はつかんだ髪を乱暴に突き放し、何も答えない母の片足を、ふたたび持ち上げた。さっきと同じように、持ち上げた膝を壁に押し付けて、母の股間を割り広げた。
母の陰部は、最初に見たときよりも赤く爛れて、白い精液にまみれていた。そして体を支える母の太腿にも、膣から流れ出た僕の精液が伝わっていた。

男は、膝を抱え上げたまま母の下腹部を何度か押した。
すると赤く爛れた膣口から、僕の精液がドロッと溢れ出た。
その精液はナメクジのように、ゆっくり母の肛門まで伝わり、赤茶けた畳の上に塊となって落ちていった。
そのボトッという音がした時、母が辛そうに身をよじった。

「おい坊ず、だからつけろと言っただろう、こんなに出して、お袋さんが妊娠しても知らねえぞ」
男は、本気で僕を叱っているような声を出したけれど、そのくせ無惨な様相になっている母の陰部から目を放さなかった。
そして「一人、二人、、」と、声に出して数をかぞえた。
「俺で四人目、息子で五人目か、奥さん、中出しされたのは亭主と息子の二人だけか」

男に訊かれても何も答えない母は、顔をそむけて唇を噛みしめていた。
そんな母を「ふんっ」と笑った男は、陰部にあれる僕の精液を、人差し指にまぶし付けた。
そして、シワを寄せ合って固くすぼまる母の肛門に、その指を突き立てた。

「んっっ」のけぞる母に容赦なく、男は、指を左右にねじりながら突き入れた。
「中で出されたのは、二人だけか」
母は息をつまらせながも「はっ、はいっ」と、うめき声の合間に言った。
男はやっと満足したのか、母の肛門から指を引き抜くと、その指を自分の鼻に近づけて匂いを嗅いだ。
「今日はあまり匂わんな」

母から離れた男は、作業服を脱ぎ始めた。
脱ぎながら僕を見て、「おまえのお袋さん、今日は浣腸しなくてもよさそうだな」と、薄く笑った。
着ているものを全部脱いだ男からは、息を止めたくなる体臭が漂ってきた。

「この前は、泣いて嫌がるお袋さんに浣腸してやったが、、」
ふたたび母に近寄ると、男は手を伸ばしてロープを解いた。
ぐったりと首を折る母は、胸元に残るブラジャーを外される時もじっとしていた。
ただ、やはり全裸であることが恥ずかしいのか、身を縮めるようにして、陰毛の見える股間を手のひらで隠した。

「今日は、このまま入れさせてもらうぞ」
そう言うと、男は母の耳に、小さな声で何か囁いた。
母は一瞬、男に抗議しかけたけれど、何も言わずに、僕が座るすぐ側で、敷布団の上に四つん這いになった。

「奥さん、もっと尻を上げろ」男に言われても、母はそのままじっとしていた。
男はまた「尻を上げろ」と、母に命令した。
母は一度、すぐ横に座る僕へ顔を向けた。
その表情は、ものすごく哀しそうだった。
母は、僕に何か言いたそうだった。
それが羞恥を訴える言葉なのか、それとも息子の視線を拒む言葉なのか、僕には分からなかったけれど、でも僕は、そんな母を美しいと思ってしまった。
母を女性として美しいと感じたのは、その時が初めてだった。

母は、涙で潤んだ瞳を僕に向けたあと、反対側に顔をそむけた。
そしてゆっくり両腕を折りまげて、そむけた顔を、汚い敷布団に埋めていった。
それだけでもお尻がつき出る格好になったけれど、さらに母は膝を引き寄せ、後ろの男に向かってお尻を高くかかげた。

「なんだ坊ず、変な顔をするな、犯るときはな、前でも後ろでも、俺はいつも、ゴムをつけるんだぞ」
僕は、コンドームをつける男を不思議がっていたのではなく、男の股間に起立する男根の大きさに、驚いていたのだった。

腹の出た、小太りな男のモノとはとても思えない大きさだった。
コンドームをつけた男根に、男は何かクリームのようなものを塗った。
「おい坊ず、お袋さんの口を手で塞いでおけ、このアパートに昼間は誰もいないが、外にまで聞えたらまずいからな」
僕は「お母さん」と呼びかけながら、顔をそむける母の口を塞いだ。
男が母の腰をつかんだ時、母の怯えと緊張が、僕の手のひらに伝わってきた。

男が勢いをつけて、男根を肛門に突き刺した時、母は顎を上げてのけぞり、それと同時に、僕が塞いだ口から絶叫を洩らした。
もがく母から手が離れそうになり、僕は慌てて母の頭を押さえつけ、きつく口を塞いだ。
敷布団に頭を押さえつけられて口を塞がれた母は、うす汚れたシーツをかきむしって苦痛に耐えていた。
男は、腰を前後に動かし始めた。

「坊ず、もう手を放してもいいぞ、叫べるのは最初だけだ、あとは息が苦しくて声も出ない」
母の肛門を犯しながら、余裕のある声で男は言った。
男に言われた通り、僕は、母の苦しみが直に伝わってくる手を放した。
母の引き攣った呼吸は、時おり、笛のような音を立てた。

「坊ず、こっちに来て見てもいいんだぞ」
僕はその言葉を待っていた。
這いつくばって母の後ろにまわり込み、僕は母のお尻へ首を伸ばした。

そこは、いびつな光景だった。
男根が深く挿入されると、肛門のシワが引きずり込まれて見えなり、母のお尻は真っ白になった。
でも男根が引き抜かれていくと、その回りが膨れて茶色のシワが姿を現し、無惨に広がった肛門が丸見えになった。
肛門の下では、陰唇のビラビラがぱっくり割れて、僕の精液をにじませる膣口が、押しつぶされたようにひしゃげていた。

「そこのカメラで、撮ってもいいぞ」男の目線の先にあるカメラを、僕は手にした。
パソコンと同様に、それは最新型のデジタルカメラだった。
「押せば写るが、おい坊ず、俺の顔は撮るなよ」

僕は、もがき苦しむ母にレンズを向けた。
ファインダーの中で、母は必死にシーツをつかんでいた。
極端に高くかかげたお尻を犯される母に向かって、僕はシャッターをきった。
「くっっ」
ストロボが光ったあと、苦しみながらも、母は首をまげて僕の方を睨んだ
カメラを構える僕の姿が信じられないのか、驚きと怒りの表情を、苦痛の中で浮かべていた。
そんな母に向かって、もう一度シャッターを押すと、ストロボの光から逃れようと、母はさっと顔をそむけた。

僕は、前から後ろから、そんな母の姿をカメラに収めていった。
射精が近づいたのか、さっきまでは余裕のあった男も、火花が散るような音をさせて、母のお尻に何度も何度も、叩きつける勢いで腰をぶつけていた。
僕は、色々な恥ずかしい姿の母を、カメラに写していった。
男は肛門を犯した後、うつ伏せに横たわる母の顔の前で、あぐらをくんだ。

「むっ、、ごっ、、」頭を押されて男根を口にした母は、よほど咽喉の奥を突かれて苦しいのか、口の隙間から嗚咽を洩らした。
男は、母の頭を上下に揺すった。
しかし、時にはその手を放し、母に淫らな技巧を強制した。

「この前はなあ、二時間かけてようやく、ここまでさせることが出来たが」
男根を咥えた母の頬が、こまかく動いていた。
母が舌を使っていることは、僕にも分かった。

「おまえのお袋さん、これを口に入れて、ちょこっと顔を動かすのがフェラチオだと思っていたらしい」
うつ伏せになって男の股間に顔を埋める母は、自ら頭を上下にさせ、時おり動きを止めては、咥えたまま舌を使っていた。
男は一度、母の口の中に射精したけれど、それを飲み込むように命じて、またフェラチオを続けさせた。

しばらくすると満足したのか、男は「もういいぞ」と言って、今度は母を仰向けに寝かせた。
カメラのファンダーを覗きながら、僕は、正常位という体位がとてもいやらしく思えた。
正常という言葉を使うのは、どう考えても変だと感じた。
そう思ってしまうほど、男に犯される母の姿は、恥ずかしいものに見えた。

男が腰を使うたびに、宙に浮いた母の足がゆらゆらと揺れた。
後ろから肛門を犯される姿は、惨いものにしか見えなかったのに、足を広げて男を迎え入れる母の姿には、交わる男女のセックスそのものを感じた。
男がコンドームをしているから余計に、それはレイプには見えなかった。
自在に腰を操る男の動きによって、母の体は、時に波うち、そして激しく揺れた。

「今日も、声は出さないな、おい坊ず、おまえのお袋さんは大したもんだ」
カメラのレンズを近づけると、母の膣は白い泡にまみれて濡れていた。
それは、僕の放った精液だけのようには思えなかった。
男根が埋まっていくと、ねばった音をさせて、新たなぬめりが湧き出てくるように見えた。
でも、母は静かに息をしていたし、声も出さなかった。

「無理やりでも、弱い女はすぐによがり出す」
母は黙って、男の責めに耐えていた。
瞳は涙で潤んでいても、その表情からは何も読みとれなかった。
母はもう、カメラを持つ僕をまったく無視していた。
僕が母の顔をまじかで写しても、ストロボの光に瞼が反応するだけだった。

僕は、母の悶える姿を見たかったし、いやらしい声も聞いてみたかった。
あんなにアソコが濡れているのに、母は何も感じないのだろうかと不満だった。
実際、もし母が安易に女の弱さを見せたなら、それはそれで、僕もそんな母に失望したかも知れない。
でもやっぱり、官能的な母を、一目でも見たかった。

「俺は、すぐによがり始める女は好かん」
男はむしろ、表情の無い母を楽しんでいるようだった。
いやらしく腰を使いながら、一瞬でもその変化を見逃すまいと、母の顔をじっと見ていた。

そして男は、くるっと体を入れ替えると、今度は母を上にした。
男の腰を跨いで上になった母は、このとき初めて顔を赤く染めて、カメラのレンズから顔をそむけた。
「おまえのお袋さん、騎上位はこの前が初めてだったらしいぞ」
男の言葉が耳に入ったのか、母はさらに顔を赤くした。

「奥さん、このまえ教えたようにやってみろ」
男にそう言われて、母は躊躇いがちに、少しづつ、お尻を前後にずらした。
「次は、どうするんだ」
僕には正常位のほうがいやらしく見えたのに、母にとってはその体位が、とても恥ずかしいようだった。
急に僕を、そしてカメラを意識して、体をよじって顔をそむけた。
真赤になった顔をして、母はお尻を少し浮き上がらせて、そのお尻をゆっくり男の腰に戻した。

男に「もっと巧くやってみろ」と命じられて、今度は、男根がほとんどその姿を現すほどに、母はお尻を浮き上がらせた。
そしてそのお尻を、男に向かって一気に落とした。
「アッ、、」
母のその声は、奥深くに突き刺さる痛みを表しているようにも聞えたし、また、僕が期待していた官能的な声のようでもあった。
顔をそむける母からは表情が見えず、僕にはどちらとも区別がつかなかった。
男に何度も命じられて、母はその淫らな動作を繰り返したけれど、声を出したのは一度きりだった。
それきり母の声を聞くことはなかった。

でも、不自然な姿勢でお尻を上下させる母の呼吸は乱れていた。
僕は、途切れがちな息を吐く母の顔が見たくて、そしてその顔をカメラで写したくて、急いで反対側に移動したけれど、すぐに母は顔をそむけて、その表情を決して見せようとはしなかった。

「おい坊ず、あまりお袋さんをいじめるな」僕は男に睨まれた。
「しかし奥さん、あんた大したもんだ、この俺が、いつも、負けてばかりだ、、」
さっきまでは余裕たっぷりだった男の声も、かなりうわずっていた。
「奥さんっ、」そう叫ぶと、男は下からさっと両手を伸ばして、母の乳房に指を食い込ませた。
つかんだ乳房で母を引き倒し、挿入していた男根からコンドームを素早く外した。
そして倒れた母の髪をつかんで、自分の股間を押しつけた。
「咥えろっ」

僕は初めて、男の残忍な本性を見たような気がした。
悲鳴を上げる母の首をねじ曲げて、男根を力いっぱい押しつけた。
母は「、、かっ、、ごっ、」と、塞がれた口から惨めな嗚咽を吹きこぼした。
それから滅茶苦茶に頭を揺すぶられた母は、咽喉の奥に直接射精されたのか、何かの発作のように首すじを引き攣らせた。
見ていると恐くなったけれど、僕は震える指先で、何度もシャッターを押し続けた。

男から解放された母は、僕たちに背を向けて座り、ハンドバッグから取り出したティシュで股間を拭っていた。

僕は、とても不満だった。
僕は最初だけで、その後、男は一人で楽しんでいた。
男と母の交わりを見て、僕はすぐに勃起した。
母にフェラチオをしてもらいたかったし、もう一度セックスもしたかった。
それに、母の肛門にも興味をそそられた。

そんな僕を無視して、男は自分が満足すると、「もう帰っていいぞ」と母に告げた。
母は股間を拭ったティシュの捨て場所に、困っている様子だった。
汚れたティシュの塊を、恥ずかしそうに隠して、僕たちに背中を向けていた。

「奥さん、そこの屑入れに放り込めばいいだろう、あとで俺が、ゆっくり始末してやるぞ、、、」そう言って男は、いやらしく笑った。
この男には、母のすべてが楽しみの対象になるようだった。
母はその勧めに従わず、ハンドバッグの中に、そのティシュを忍ばせた。
そして母は、赤茶けた畳に散乱する衣服を身につけ始めた。

母はパンティーを腰まで上げると、そっと股間のシワを伸ばし、両手を背中に回して、ブラジャーのホックを静かに留めた。
男は、恥じらいを含んだ母の仕草を、じっと見つめていた。
膝を緩やかに折りまげて、ストッキングを巻き上げる母の姿には、僕も女性らしい美しさを感じた。

でも、やっぱり僕は不満で、苛々していた。
せっかく撮ったものは、どうするんだと思った。
男は、そういう僕の不満をまったく無視して、母を見つめていた。
「奥さん、なかなか用意がいいじゃないか」
服を着終えた母は、コンパクトの鏡を見ながら、口紅をつけていた。
男は体をずらして、化粧直しをする母の横顔を覗きこんだ。
自分の男根を、思う存分に咥えさせた母の唇に、ねっとりとした目を向けた。

「奥さん、あんた本当に、いい女だ」
そんな男に構わず、母はすっと立ち上がった。
僕は慌ててパンツとズボンを履いた。
男に言いたい事は一杯あったけれど、とにかく母と一緒に帰ろうと思った。

――家に帰ってお母さんを、家に帰ってから、僕のしたい事を母にするつもりだった。
カメラで撮った画像は、また今度、ここへ取りに来ればいいと思った。
ハイヒールを履いた母がドアを開けた時、男が「ちょっと待て」と言った。母の側にいた僕には、最初、どちらに声をかけられたのか分からなかった。

「奥さん、ちょっと待て」
男は、ずんぐりした体型のわりに素早く立ち上がって、母の手を引いた。
母を部屋に上げると、その体を後向きに回して、ドアのすぐ横の壁に、母を押し付けた。

「俺はどうしても、奥さんとナマでしたくなった」
男は後ろから、母のロングスカートをまくり上げた。
母は一度、ふり返って男を見たけれど、また、顔を壁に向けてうつむき、男のされるままになった。
「安心しろ、すぐに終ってやる、中にも出さない」
パンティーとストッキングを一緒に引き下ろしながら、男は、ドアのそばに立つ僕を見た。
「坊ず、おまえはもう帰れ、心配するな、お袋さんはすぐに帰してやる」ハイヒールを履いてお尻をつき出す母に未練を残して、僕はドアを閉めた。

でも僕は帰らなかった。
建付けの悪い隙間だらけのドアに、耳を押しつけた。
背の低い男には無理なのか、「もっと尻をさげろ」「もっとさげて足を開け」とか、あれこれ母に言っていた。

「うっ、、」男の声が途切れると、すぐに母のうめき声が聞えた。
いきなりドスドスと母を後ろから突く、男の様子も伝わってきた。
最初から、男の声に余裕はなかった。
「奥さん、あんた、いかない女なのか、亭主とするときも、白けた顔をしているのか」男が「どうなんだっ」と怒鳴ったとき、母の苦痛を訴える声が聞えた。
男は何かしたのか、母の「痛っ」という声がドアから響いてきた。

ふたたび男は「亭主のときは、いくのか」と怒鳴った。
「あの人は、、優しい人、だから、、」躊躇いがちに母が言った。
僕は、父が優しいからどうなんだ、と思った。
母も一人の女として、官能に身を焼かれて声を出すことがあるのか、とても気になった。母のような女性が、セックスをしながら絶頂に達するのかどうか、知りたくて堪らなくなった。
母のいう意味は、僕には分からなかったけれど、男はそれで納得したようだった。

「そうか、、オナニーの時はどうなんだ」
また母が「痛っ、、」と悲鳴を上げた。
男は執念深く、何度も母に尋ねた。
その間も、男の動きを伝える振動が、ドアに響いていた。
僕がよほど注意して耳を澄まさないと聞き取れない声で、母は「少し、だけ、、」と言った。
すかさず男は「嘘をつくな、正直に答えてみろっ」と怒鳴った。

また母の悲鳴が聞えて、男が「オナニーの時はどうなんだっ」と、きつく問いただした。
「い、、いきます、、」
僕は、母がオナニーをすると知った時の何倍も、ショックを受けた。
あの母が自分でしながら絶頂を感じるなんて、信じられなかった。
「だったら奥さん、あんた、男に抱かれて、いったことは無いのか」
「、、はい」小さな声で母は認めた。

――そうか、そうなんだ、僕とそっくりの父は、ただ優しいだけの男で、自分のお嫁さんも悦ばせてあげられない、情けない男なんだ、と思った。
でも、どんなに父と似ていても、僕は違うと思いたかった。
小さくても、僕のペニスなら母をいかせることが出来る、そう信じたかった。
――家に帰ったら、僕はまた、そう思った。

部屋の中が、急に静かになった。
まさか、母が突き殺されたのではないかと不安になり、僕は少しだけ、ドアを開けた。
「坊ず、まだ、いたのか」ちょっとだけしか開けていないのに、男はすぐ、僕に気づいた。
でも、その声にはやっぱり余裕がなかった。
男は立ったまま、その足元に正座した母の頭をつかんでいた。
きちんと身なりを整えた母に、またフェラチオさせていた。

――家に帰ったら僕も、僕には、母の苦しみや哀しみを思いやる気持ちは、どこにもなかった。
ただ、美しく見える母を自由にしてみたかった。

男は、僕の視線を気にもせず、母の頭を強く引き寄せて射精した。
母はハンカチで口許を拭った。
その仕草は、そっけなくて、羞恥のかけらも見えなかった。
さっきまで、悲鳴を上げていた母が嘘のようだった。
散々、あの男にいじめられて、母は開き直ったのか、それとも心が麻痺してしまったのか、僕には分からなかった。

「私、帰ります」男に背を向けて、母は立ち上がった。
ドアの前に立つ僕など、存在しないかのように、母は全然ちがうところを見て部屋から出て行った。
男も、僕ではなく、母が出て行ったドアの間をじっと見ていた。

二人に無視されて、僕は腹が立って仕方なかった。
とにかく僕は、廊下に響く母の足音を追って、小走りで男の部屋をあとにした。
アパートを出てすぐ、母に追いついた僕は、後ろにくっ付いて歩いた。
後ろから見ると、母のウエストは細く、そんぶんロングスカートに包まれた腰は丸みがあった。
僕はたぶん、その時初めて、女性の足首を性的な目で見たと思う。
ハイヒールで踵が浮いた母の足首は、切れそうなという、よく聞く表現がぴったりだと思った。
それまで、どうしてみんなが女性の足首を意識するのか、分からなかったけれど、前を歩く母の足首を見ていると、確かに、ぞくぞくする気分になった。

母の車は、少し歩いたところに停めてあった。
運転席のドアに、母がキイを差し込んだとき、「ねえお母さん、こっちも開けてよ」と、母に呼びかけた。
ずっと、僕を無視していた母が、車をはさんで向かい合う僕に、初めて正面から顔を見せた。

「、、、」
助手席のロックを外してくれるように頼んだ僕は、思わず身を引いた。
母は何も言わずに、もの凄く恐ろしい顔で、僕を睨みつけた。
――お母さん、僕を恨んでるんだ、確かに、僕は母を犯した。
でも、あれはすべて、あの男が仕組んだことだ。
言い訳がましいけれど、母と同じように、僕も、あの男の犠牲者だ。
それは、きっと母も分かっているはずだ。
あんなに犯されて、恥をかかされて、辛いのはよく分かる。
でも、あの男に向けるのならともかく、どうして僕に、怒った顔を見せるのか、よく分からなかった。

母は無言のまま車に乗り込むと、僕を一人残して走り去ってしまった。
僕の苛々はさらにつのり、どうしようもなく腹が立った。
僕は迷ったけれど、男のいるアパートに引き返すことにした。

僕が家に帰ったとき、母は台所にいた。
もう六時を過ぎていた。
やっぱり母はお風呂に入ったのか、昼間と違う服を着ていた。
「お母さん」僕が呼びかけても、母は僕を無視して晩ご飯の支度を続けた。

キャベツを洗っている母のそばに近寄って、「ねえお母さん」と、もう一度、呼びかけても返事はなかった。
昼間のロングスカートと違って、ふわりとしたスカートはウエストの細さだけを強調して、その下にある母の腰つきを、僕の目から完全に覆い隠していた。

――この中に、あの丸いお尻が、僕はもう一度セックスしたかったし、未体験のフェラチオもしてもらいたかった。
でも、もの凄く怒った顔をして、車で走り去った母に、いきなりそんな事を要求するは、さすがに気が引けた。
母は返事もしてくれず、僕を無視していたけれど、怒っているようには見えなかった。
ニンジンを包丁で刻んでいる母のうしろ姿は、とても無防備に見えた。

――もう怒ってないのかな、無理やりではあっても互いに一度は交わり、僕は母の体内に射精までした。
母親と息子だったけれど、でもだからこそ、何もかも、母は許してくれているような気がした。
それに、悪いのはすべてあの男だし、僕と母は共に犠牲者だった。
そう思うと、ずっと続いていた苛立ちも少しは治まってきた。

――さわってもいいのかな、あの部屋で見た、お尻の丸みを確かめたくなった。
お尻にさわるくらい別にいいと思ったし、母も拒まないだろうと思った。
僕は、母のお尻に手を当てた。
思った通り、母は拒まなかったし、ぴくりとも動かなかった。

お母さんは許してくれている、そう思った僕は、なんだか楽しくなってきた。これから母とセックスできる、フェラチオもしてもらえる、それに、お尻の穴も。
エッチで楽しい期待感に、僕の心は浮き立った。

柔らかいスカートの手触りが、母の優しさのようでとても心地良かった。
もう僕は遠慮しないで、恐る恐る伸ばした手を大胆に動かして、お尻の割れ目に手を入れようとした。
「春樹、、」
その声を聞いた僕は、ぞっとして、お尻から手を放してしまった。

母の声は、なにか機械が喋っているように、冷たく僕の心に響いた。
母はニンジンを刻みながら、僕に言った。
「よく覚えておきなさい、今度そんなことしたら、刺すわよ」

恐ろしい言葉を口にする母は、それでも何事もなかったように、刻んだニンジンをざるに移して、今度はピーマンを手に取った。
「それから、みんなの前では母親になってあげるけど、今みたいに、もう私に近づかないで、あなたが側にいると、吐き気がするの」

淡々と話す母の言葉は、僕の心を暗くさせた。
その言葉は、僕と母子の縁を切ると言っているのと同じだった。
どうして、そんなに僕が憎まれるのか、本当に分からなかった。
たとえ息子でも、あんな場面では、誰だってその女性に挑んでいくのは当然だと思った。
そんなことが分からない母とは思えなかった。

「僕じゃない、、悪いのは、みんなあいつなのに」
「あら、そうなの」
それだけ言うと母は、コンロにフライパンを載せて火をつけた。
もう僕のことなど、まったく無視して料理を始めた。
僕は何も言えず、そして何も出来なかった。

二階に上がった僕は、部屋の中でマスターベーションをした。
寂しくて悲しかったけれど、どうしようもなく湧き起る性欲を、一人、みじめに処理した。
男の部屋から持ち帰った画像を見ながら、僕は必死に手を動かした。
アパートに引き返した僕を、あの男は黙って迎え入れ、僕が望む画像を印刷してくれた。
『坊ず、お袋さんを大事にしな』帰りぎわ、男はそう言って、出て行く僕を見送った。

――なに言ってやがる、僕は、みんなおまえのせいだと思った。
ティシュに射精し終わると、余計に悲しくなってきた。
どうせ憎まれるのなら、怒鳴られたり、叩かれたりしたほうが、まだましだった。
あんなふうに無視されるのは、堪らなく辛かった。
母に憎まれている自分が、あの男からもらった画像で自慰をした自分が、堪らなく悲しかった。

その日は、父の帰りも早く、家族四人で晩ご飯を食べた。
母は、まったくいつも通りで、父にビールをついであげたり、弟と冗談を言い合っていた。
昼間、あんなに泣いていたのに、同じ女性とは思えないほどだった。
僕は、母の強さを、そして女性が持つ強さを、この目で見たような気がした。
母は、僕にも普段と変わらない態度をとっていた。
ご飯もよそってくれたし、お茶も淹れてくれた。
ただ、母は決して、僕と目を合わそうとしなかった。

普段と変わらない態度の母を見ていると、台所で言われた言葉は、すべて本気なのだと改めて実感した。
母の笑顔を見れば見るほど、僕はどんどん悲しくなっていった。
僕は、とにかく母に謝ろうと思った。
なぜ、そこまで僕を憎むのか分からなかったけれど、一生懸命に謝って、母に許してもらいたかった。
母子の縁を切られるなんて、絶対に嫌だった。たとえ子供扱いされても、僕に優しい目を向けて欲しかった。

晩ご飯のあと、僕は台所に行った。
流しで洗いものをする母に、僕は声をかけた。
「お母さん」
僕はやっぱり無視された。
でも、本気で謝れば母もきっと許してくれる、そう思って僕が謝ろうとした時、「春樹、嘘じゃないのよ」と、母に言われた。

母は、洗いものを続けながら、冷たい声で僕に言った。
「あなたが側にいると、本当に吐き気がするの、だから向こうへ行って」僕は泣きたくなったけれど、少し腹も立った。

――そこまで言わなくてもいいじゃないか母に謝るつもりだった僕は、つい思ってもいなかった事を口にしてしまった。
「お父さんに、僕が撮ったもの、見せてもいいの」

皿を洗っていた母の手が止まった。
言葉にしてしまうと、それが僕の本心のような気がしてきた。
台所とつながっているリビングで、父がこちらに背を向けてテレビを見ていた。
もし父がふり向けば、僕と母の姿は、そのまま見えるはずだった。

僕はそれを承知で、母のお尻に手を置いた。
母はビクッと震えたけれど、僕の手を拒まなかった。
あの男の部屋で、初めて母とセックスした時よりも、僕は胸がドキドキしてきた。

「郵便で送ったら、お父さんびっくりするだろうね」
僕はなんだか秒刻みで、悪い男になっていくようだった。
僕の脈拍はどんどん速くなって、息をする音が自分でも聞えた。
頭の片隅では、こんな事いけない、そう思ってはいたけれど、暴走し始めた自分の欲望を、僕には抑えることが出来なかった。

僕は、母のお尻をつかんだ。
そして、水に濡れた母の指先を見つめた。
「お母さんが、オナニーするって、本当なの」
次々と僕は、自分でも驚く言葉を口にした。

――これ以上、お母さんを傷つけたら、母は絶対に僕を許してくれないだろうと思った。
母は、うつむいた顔を少し赤くした。
でもすぐに、強い母に戻ってしまった。

「女なら、、」と言葉を区切って顔を上げた母は、平気な顔をして言った。
「女なら、誰でもすることだわ」
もし母が、弱い女の姿で涙を見せていたなら、僕の欲望にも少なからず、歯止めが加わったかも知れない。
でも、あくまでも強気な母に、僕の欲望はさらに加熱した。

僕はうしろからスカートをまくって、下着越しに、母のお尻を力強くつかんだ。それまで、僕のされるままになっていた母も、ふり返って僕の手を拒んだ。
母の目線は僕ではなく、リビングで背中を向ける父に注がれていた。
母を一度も満足させることのなかった父は、十日前と、そして今日の出来事を知らずに、テレビを見ていた。
僕には、そんな父が馬鹿に見えた。
優しいだけが取柄の男になんか、なりたくないと思った。
憎まれても、母子の縁を切られても、目の前の女性を自由にしてみたかった。

「お母さん、僕の部屋に来てくれるよね、それとも僕を刺すの」
僕は不思議と大胆になれた。
ふり向いて父を見ている母の股間に、手をこじ入れた。
その手を両手でつかんだ母は、やはり父のほうを見ながら「春樹、」と言った。

「もしあの人を悲しませるような事をしたら、その時は、、」それだけ言うと母は、僕の手を放して、さっと向きを変えた。
台所から廊下に出た母は、そのまま二階へ上がっていった。
僕も足早に、二階の自分の部屋に向かった。

僕の部屋に入った母は、躊躇いも見せずにスカートの中に両手を入れて、ストッキングを巻き下ろした。
そしてすぐに、パンティーも脱いでいった。

「したいのなら早くして、、後片づけが残っているの」
隣りの部屋では、もう弟が勉強を始めているはずだった。
それを意識してか、母の声は低く抑えられていた。
母は、それが何でもない事のように、僕のベッドに仰向けになった。
わずかな色気さえも見せない母に、僕は不満を持った。
でもその時は、とにかく母を抱きたかった。

僕はズボンとパンツを脱いで、ベッドに上がった。
僕はスカートをたくし上げで、力を抜いている母の足を広げた。
下着をつけていない母の股間には、当り前だけど、昼間、男の部屋で見たものと同じ性器がひそんでいた。
ただ、一度は僕を受け入れ、そしてあの男に荒らされた名残りを、まったく感じさせなかった。

僕は、少し生臭くても、不快ではない匂いのする母の性器を舐めまわした。鼻腔と舌で直接、母そのものに触れる僕は、興奮のあまり「お母さんっ」と、呼びかけた。
すると母は
「その呼び方、やめてくれないかしら」と、醒めた声で言った。

せっかく興奮してきた僕は、ちょっとムッとしたけれど、まさか母のことを名前で呼ぶわけにもいかず、「だったら、なんて呼べばいいんだよ」と、母の股間から顔を上げて聞いてみた。
母からは、僕の興奮が一気に萎んでしまう、冷たい答えが返ってきた。

「余計なこと言わないで、さっさと終って」
僕を見ないで、別のところに目を向けたまま、母はそう言った。
そんな母を前にして、僕の興奮は、歪んだ怒りに変わった。
脅迫じみたやり方で、母を自由にしようとする自分の卑劣さも忘れて、僕はその怒りを母にぶつけた。

でも、横たわる母と交わろうとしても、その体位が初めての僕には、うまく母の膣に挿入できなかった。
肛門まではっきり見えるほど、母の足を広げても、腰の位置や角度がよく分からなくて、僕は無意味な動作を繰り返した。

「僕じゃないのに」
なかなかうまく行かない苛立ちで、「悪いのはあいつなのに」と口走りながら、そして「悪いのは僕じゃないのに」と母に訴えながら、ペニスを押しつけた。
「んっ、、」やっと先端が入った時、濡れていない膣に痛みを感じるのか、その時だけは母が少しのけぞった。

でも、僕が膣の奥に進んで行けば行くほど、母の表情は冷たくなっていった。
僕がどんなに動いても、その表情は変わらなかった。
ただ母の膣内は、苛立ちや怒りを忘れてしまうほど、暖かくて、気持ち良かった。

「春樹」
必死に腰を動かす僕はまた、母の醒めた声を聞いた。
やっぱり母は、僕を見ないで部屋の壁に顔を向けていた。
「春樹は、あのとき笑っていたわひどいことされる私に、カメラを向けて、あなたは笑っていたわ」

そんな、僕が笑っていたなんて、嘘だと思った。
「そんなの嘘だ」、そう言いたかったけれど、ペニスに伝わる快感で息が詰まり、僕は何も言えなかった。
「哀しかったわ、、」

部屋には暖房が効いていたけれど、僕は体中に寒気がした。
でも股間だけは熱く脈打って、僕は何度も母を突いた。
母を見ていると恐ろしくなったけれど、腰の動きを止めることは出来なかった。
まったくの無表情で、母は言葉を続けた。

「春樹、、どうして私を助けてくれなかったの」
ついに僕は、我慢できなくなって母に射精した。
その瞬間も、母の顔に表情は無かった。
射精した虚脱感で、横たわる母にもたれかかると、「終ったのなら、どいてくれないかしら」と、母は強い力で、僕を押しのけた。
そしていかにも面倒くさそうに、部屋に置いてある箱からティシュを抜き取り、太腿に伝わる僕の精液を拭った。
そのティシュをゴミ入れに放り込むと、母は何事もなかったかのように、パンティーとストッキングを身に着けた。

でも部屋を出るときには、少し強い口調で、ドアに向かって母は言った。
「もし、あの人を悲しませる事をしたら、その時は、ただでは済まさないわ、よく覚えておきなさい」
部屋から出て行く母を、僕はベットの上から、呆然として見送った。
次の日、僕は学校でも、ずっと母のことを考えていた。
母に恨まれている、そう思うと本当に辛かった。

――もうお母さんを哀しませることは止めよう、その気持ちに嘘はなかったけれど、でも、そう思ったすぐその後には、ペニスで味わった母の感触が蘇えった。
家に帰ると、母はもう、台所で晩ご飯の支度を始めていた。
僕は、台所の入口に立って母を見た。
母の足元に目を移すと、ハイヒールの時ほど際立ってはいなくても、それでもスリッパを履いた母の足首は、ほそく締まって見えた。

昨日の夜、その足首をつかんで母の足を広げ、セックスをした記憶が蘇えった。
人形のような母に挑みかかった、みじめで、情けないセックスだったけれど、それでもやっぱり、あの蕩ける快感だけは忘れることが出来なかった。

母は、僕を無視して料理を続けていた。
僕が見ているのは分かっているくせに、一度も、僕の方を見ようとしなかった。
キャベツを洗っている母に近づくと、「いま忙しいの、あとにして」と言われた。
そう言った母の唇は、うすく口紅が引かれて、とても魅力的だった。

若いころの母はその唇で、僕の知らない男性たちの性器にも、フェラチオをしたはずだ。
男性に抱かれるたびに、母はフェラチオをしていたのだろうか。
それともセックスのできない生理の時に、その男性を満足させようと、懸命なフェラチオをしたのだろうか。
なぜか僕はそんなことを思い、そしてその想像に、訳もなく興奮した。

もう母を哀しませることはよそう――、そんな気持ちは吹き飛んでしまった。
僕はやっぱり、欲望には勝てなかった。
ズボンのチャックを下げて、僕は勃起したペニスをつかみ出した。
そして母の横に立ち、「お母さん、フェラチオしてよ」と、甘えてねだった。

母は、うんざりしたように、ため息をついた。
「忙しいから、あとにしてと言ったでしょう」
そう言いながら母は、僕の足元に膝をついた。
そして、右手で僕のペニスをつかむと、乱暴にしごき始めた。
水仕事をしていた母の手はとても冷たかった。
僕のうすい皮膚が破れてしまいそうなほど、母は乱暴に手を使った。

それはもう、ただ早く処理するための、機械的な行為だった。
僕は、そんな冷たい母の手にさえ快感を覚えた。
そういう自分が情けなかったけれど、僕はさらに情けない声を出した。
「お母さん、口でもしてよ」母は、鬱陶しそうに髪をかき上げると、僕に見せつけるように、口を大きく開けてペニスを咥えた。
少しでも早く終らせようと、母は体ごと頭を前後に動かした。

「早く出しなさい」一度、ペニスから口を放した母は、顔を横にそむけて僕に言った。
そしてまた、面倒くさそうにペニスを口に咥えた。
それがどんなにいい加減で、なげやりなフェラチオでも、僕は、初めて知るフェラチオの感触で、すぐに射精したくなった。
むず痒いほどの快感で立っていられなくなり、僕は母の頭をつかんでしまった。

そのとき、母は初めて僕に逆らい、僕から離れようと両手を突き出した。
興奮した僕は、さらに母の頭を押さえつけて、「ごっ、、」という母の嗚咽を聞きながら射精した。
僕が射精し始めると、母は大人しくなり、最後の一滴を絞り出すまでじっとしていた。
僕が手を放すと、母は素早く立ち上がった。
母は生ゴミ入れに顔を向けると、口の中の精液を吐き出した。

「口でするくらい、いつでもしてあげるわ、でも、二度と私の頭にさわらないで、、」
台所のシンクに顔を伏せて、母は咽喉にからんだ痰をきるように咳き込んだ。
全身で不快感を表す母を見ていると、いかに母が僕を憎んでいるかよく分かった。

「あのとき、あなたは私の頭を押さえつけて、笑っていたわ、息もできないくらい苦しかったのに、、私、一生忘れないわ」

母は、あの男に肛門を犯された時のことを言っていた。
本当に、僕は笑っていたのだろうか。
笑いながら頭を押さえつけて、苦しみに叫ぶ母の口を塞いだのだろうか。
僕には、よく思い出せなかった。

その夜、父は帰りが遅いらしく、僕たちは三人で食卓を囲んだ。
昨日と同じで、食事の世話はしてくれたけれど、やはり母は、僕の顔を決して見ようとしなかった。
母の愛情と笑顔は、すべて弟に向けられていた。
そんな母と、弟は駄洒落を言いながら、楽しそうに晩ご飯を食べていた。

箸でご飯を口に運ぶ母を見ていると、夕方のフェラチオを思い出したけれど、でもそれは快楽の記憶ではなく、僕の精液をまるで腐った物のように吐き出す、母の横顔ばかりが思い出された。
僕は思った。
もう二度と、あの母の笑顔が僕に向けられることは無いのだと思った。
三人で食事をしていても僕だけは、のけ者だった。
僕には良心も残っていたし、もちろん、母を苦しめた罪の意識もあった。

でも、母に詫びる気持ちの一方で、晩ご飯を食べながら、僕の心はどんどんいじけていった。
弟の声が耳障りだった。
母と楽しそうに向き合う弟が、無性に憎らしくなった。

――どうせ僕は、母に憎まれるのなら、とことん憎まれてやろう、そして嫌味なほど大人びた弟を、徹底的に悲しませてやろう、そう思った。
きっと僕はそのとき、入ってはいけない暗い闇に、自ら足を踏み入れたのだと思う。

食事が終って、二階に上がった僕は、弟の部屋の前に立った。
そして「早く入ってよ、お母さん」と、ことさら大きな声で言った。
そんな一人芝居が、いつかは弟を苦しめるようにと願って、僕は声を出した。
僕の声は、部屋にいる弟の耳にも届いたはずだった。

僕はすぐに一階へ降りて行き、台所にいる母に声をかけた。
母は黙って僕について来た。
階段の途中で、「今日は、お尻でしてもいいのかな」と母に言ってみた。
母は急に、何も言わずに向きを変えて、階段を下りていった。

さすがに母も怒ったのかと、あとを追うとそうではなかった。
寝室に入った母はすぐに出てきて、僕に小さな箱と、ハンドクリームの容器を手渡した。
「痛くされるのは、かなわないわ」

開封されていないコンドームの箱は、いずれ封を切られて、夫婦の営みに使われるはずの物なのだろう。
それを母は、恥ずかしげもなく僕に手渡すと、先に立って僕の部屋に向かった。
部屋の中で、その姿勢を要求すると、母はベッドの上で四つん這いになった。

僕が後ろからスカートをまくって下着を引き下げても、母は一切、抵抗しなかった。
お尻の肉を割られて、肛門をむき出しにされても、身動き一つしなかった。
そんな母を見ていると、なんだか僕は、無言の復讐をされているような気がしてきた。
でも僕は、母の体を自由にできるのなら、そして憎たらしい弟を悲しませることができるのなら、それでもいいと思った。
僕は、母たち夫婦のコンドームをつけて、それにハンドクリームを塗った。こまかなシワが寄せ集まる母の肛門にも、ハンドクリームをまぶしつけた。

本当は、何もつけないで入れたかったけれど、やっぱり母の生々しい匂いがペニスに付くのは嫌だった。
汚いと思ったからではなく、女性して美しい母の、あからさまな匂いを、知りたくないと思った。
僕は、隣りの部屋を意識しながら、母の肛門に狙いをつけて、ペニスを押し付けた。

「くっっ、、」あっけないほど簡単に、挿入することができた。
でも、それまでじっとしていた母が、急に苦しみ始めた。
僕の貧弱なペニスでも、やはり母に苦痛をもたらすようだった。
あの男の部屋で見せたほどでは無かったけれど、それでも母はのけぞって、肛門の痛みに耐えていた。
母も、弟の部屋を気にしているのか、必死にうめき声を抑えていた。

コンドームをしているからなのか、それとも肛門性交というのは、元々こんなものなのか、ペニスに伝わる快感は、それほどのことでもなかった。
膣の中のほうが、その何倍も気持ちよかった。
でも、膣で交わった時は平然としていた母も、肛門を貫かれると、僕が動くたびにのたうち、うめき声を上げた。
このとき初めて僕は、生きている母を抱いている気持ちになれた。

僕は毎日、母を抱いた。
学校から帰ると、必ずフェラチオをさせたし、夜には、肛門を犯した。
父がいる夜も、いない夜も、僕は母を抱いた。
僕の部屋で母と交わる時は、その前に、いつも弟の部屋に向かって何かしらの合図をした。
それは母を呼ぶ声だったり、大きな足音だったり、弟に聞える何かの音をさせた。

僕の部屋に、母が毎日やって来るのを、弟も気づいているはずだし、不審に思っているのも確かだと思った。
ひょっとしたら弟は、僕の部屋のドアに耳を押し当てて、その様子を聞いているのかも知れない。
普段と変わらない弟を見ていると、それが事実かどうかは分からなかったけれど、そういう弟の姿を想像すると、僕はとても楽しい気分になった。

春休みになる前の夜、僕は部屋のドアを少し開けたまま、晩ご飯を食べに一階へ下りた。
部屋を出る前、僕はベッドの上に、数日前、母から奪った白いパンティーとブラジャーを並べた。
そしてその横に、あの男から貰った母の画像をばら撒いた。
男の腰を跨いで、上になった母が顔を赤らめるものや、男に言われて技巧を使う、フェラチオの様子を写したものを、選んでばら撒いた。
ついでに、野太い男根が母の肛門に突き刺さっている画像も重ねて置いた。

弟が食事を終えて二階に上がってから、しばらくして僕も二階に上がった。
部屋のドアは、僕が開けて出たときのままだった。
中を覗いても、そこに弟の姿はなかった。
――なんだよ、僕は自分の策略は失敗だったと思った。
母が毎日出入りする僕の部屋を、弟も必ず意識しているはずだと思ったけれど、やつは僕の部屋を素通りしたようだった。

でも、母を部屋に呼ぶ前に、それらを片づけようとベッドに近づいた僕は、つい笑ってしまった。
母の下着も、数枚の画像も、はっきりと動かされた跡があった。
元通りの位置に戻されていたけれど、それらを弟が手に取ったのは明らかだった。

その夜も、僕は母の肛門を犯した。
この頃になると、母はさほど苦痛を訴えなくなっていた。
それに、うめき声も「ぐっっ」と歯を食いしばるものから、「んっ、、」と、鼻に抜けるような息の音に変わっていた。
そして肛門を犯したあと、母の股間を覗きこむと、必ず膣が濡れていた。
特別、母が感じているようには見えなかったけれど、でも何かしら肛門に刺激を感じているのは確かなようだった。

ただ、普通にセックスする時は、たとえ膣が濡れていても、母はまったく呼吸を乱さなかった。
交わりの回数が増えていくほど、母の心はより固く閉ざされ、僕は徹底的に無視された。

そんな母の肛門にペニスの出し入れを繰り返していると、部屋のドアが、ほんの少し開いたように見えた。
最近、少しは余裕の出てきた僕は、ずっとドアに注意をはらっていた。
その日、父は遅く帰って来るはずだったので、僕の部屋の前に立っているのは、弟に間違いなかった。

「お母さん、お尻でセックスして気持ちいいの、オマンコがすごく濡れてるよ」
事実、母は濡れていたけれど、僕が言うほどのことでは無かった。
でも僕は大袈裟に、弟に聞えるように声を出した。
そして、何度も、何度も肛門を突いた。
四つん這いの姿で、スカートをまくられた母は、時おり「んっっ」と息を洩らして、首を傾けたり、のけぞったりした。

射精し終えた僕は、その日になって初めて、母にオナニーを強制した。
「お母さん、オナニーでいくところ見せてよ」
母は黙って、目を伏せていたけれど、急に姿勢を変えて、ベットの上で仰向けになった。体を真っ直ぐにして横たわると、自らスカートをまくって、母は閉じた股間に手を伸ばした。
そして中指を、陰毛に覆われた溝に滑り込ませると、その指をゆっくり動かした。

僕も、まさか本当に母がオナニーを始めるとは思っていなかった。
弟のことなどすっかり忘れて、僕はその光景に見入ってしまった。
部屋の中が、しんと静かになった。
母は女の秘密を、僕の前にさらけ出していた。

どうしてか、僕は幼い頃の記憶と共に、母の指先を見つめていた。
公園で一緒に遊んだり、熱を出した僕を看病してくれる母を思い出しながら、幼稚園に行きたくないとくずる僕を厳しく叱る、その母の記憶をたどりながら、淫らに動く母の指先を見つめた。
そういう日々の合間にも、母が今しているように、一人で指を使っていたのかと思うと、なんだか悲しい気持ちになった。

母が少しだけ足を広げた時、静かな部屋に、シーツのこすれる音がした。
母は両手を使い始めた。
左の指でクリトリスを刺激しながら、右手の二本の指先を膣に埋めた。
母は、ゆっくり深い呼吸を繰り返し、二本の指先から恥ずかしい音をさせた。
見ていると、あの母にもこんなことが出来るのかと、不思議にさえ感じた。

急に、母は、つま先を不自然なほど反り返らすと、ひときわ深く息を吸った。
そして股間に手を入れたまま、足をぎゅっと閉じた。
「、、あっっ、」それが演技ではないかと僕が疑ってしまうほど、母は切ない声を上げて、のけぞった。

でも数回、荒い呼吸をしたあとには、いつもの母に戻っていた。
僕から顔をそむけてベッドから降りると、スカートのシワを両手で伸ばして、着ている衣服を整えた。
そして何も言わずに、部屋のドアに向かった。
その時になって、僕は弟のことを思い出したけれど、母が開けたドアの前に弟の姿はなかった。

母が部屋からいなくなってしまうと、それまでの緊張感が解けて、体中の力が抜けてしまった。
あれほど毎日、母と交わっていても、さっき見た母の痴態は、幻ではなかったのかと大袈裟に思ってしまった。
弟は、確かにこの部屋の様子を窺っていたはずだけれど、それもなんだか僕の錯覚のような気がしてきた。

僕が夢の中にいるような気分に浸っていると、ドアがノックされた。
僕は返事をしなかったし、弟も黙ってドアを開けて、僕の部屋に入ってきた。
「兄貴は、お母さんと、、」
それだけ言うと、弟は僕のベッドをじっと見た。
僕は『兄貴』と呼ばれるのが好きではなかったし、まだガキのくせに、僕のことを『兄貴』と呼ぶ弟が大嫌いだった。

「秋雄、おまえはお母さんと、何回やったんだ」
僕はわざと、そういう返事をした。
弟はプライドの高い男だったから、どんなにショックを受けていても、僕がそう言えば否定はしないと思った。
軽蔑する兄が母と肉体関係を持っていれば、自分はそれ以上でなければ気が済まないのが、弟の性格だった。

「最近のお母さん、淫乱で困るよな、おまえも大変だろう、勉強が忙しいのにお母さんの相手をするのは」
弟は、怒っているようにも見えたし、悲しんでいるようにも見えた。
意地の悪い見方をすれば、口惜しがっているようにも見えた。
「この前なんか大変だったぞ、浮気相手のオッサンのところに連れて行かれてさあ」

僕は、さっき弟が見たはずの画像を、机の引き出しから取り出した。
そして弟が顔を向けているベッドの上に並べてやった。
「誰かに見られるほうが興奮するとか言ってさあ、見ろよ、こんなに男の上で腰ふって、、まあいつもの事だけどな」

弟の目に涙が滲んでいた。
それでも弟は、印刷された母の姿をじっと見ていた。
「おまえは夜中にしてるんだろう、やっぱりあれか、オマンコと肛門で二回づつがノルマなのか」
僕がそこまで言うと、弟は黙って部屋から出て行った。
ちょっとだけ可哀想な気もしたけれど、でも、これくらいでちょうどいいと思った。

これから弟がどんな行動に出るのか楽しみで、ワクワクしてきた。
毎日、僕と母の様子を覗き続けるのか、それとも、母をなじって襲いかかるのか。
優等生の弟がどうなっていくのか、とても楽しみだった。

暗い闇の中で、僕は、人間の心を失いつつあった。
翌朝、僕が朝ご飯を食べていると、二階から母の悲鳴が聞えてきた。
その日から春休みだったけれど、なかなか起きてこない弟の様子を見に、母が二階に上がった直後のことだった。
尋常では無いその悲鳴に、父も驚いて二階に駆け上がった。
僕は、弟が母に襲いかかったのだと思った。
思った通りの成り行きで、僕は嬉しくなった。

でも、父のあとからゆっくり二階に上がった僕は、予想とまるで違うものを見た。
僕が見たものは、首を吊って死んでいる弟の姿だった。
僕も、まさか弟が自殺するとは思わなかった。
すべて僕のせいだったけれど、罪悪感も、悲しみも、まったく湧いてこなかった。
それどころか、通夜の晩、弟の遺影が祀られる祭壇の横で、涙にくれる母に欲情してしまった。
僕はもう、まともな人間の心を失っていた。

髪をアップに結い上げて喪服を着た母は、とても綺麗に見えた。
泣いている母を見ていると、あの男の部屋で、涙を流して苦しみに耐えていた母の姿を思い出した。
僕はなおさら興奮して、我慢できなくなった。

いつもならその時間、僕の部屋で母を抱いているはずだった。
弟の祭壇は、ソファなどを片づけてリビングに組まれていた。
葬式は明日、近くのお寺でされる予定だったけれど、この通夜の席にも、多くの中学生が焼香に訪れた。
弟と同い年の中学生が焼香するたびに、母の悲しみもより深まっていくのか、父の隣りで、母は泣いてばかりいた。
そんな母を見かねた親戚の叔母さんが、父に何か言ったあと、母の肩を抱いて廊下に連れ出した。

一人で戻ってきた叔母さんを見て、僕は立ち上がった。
思った通り、母は寝室で休んでいた。
母が暗いところを嫌ったのか、部屋には照明が灯っていた。
僕が寝室のドアを開けて中に入っても、二つあるベットの一つに横たわる母は、身じろぎさえしなかった。

僕は、たとえ父がここにやって来ても構わないと思った。
それほど僕は欲情していた。
喪服の裾から、斜めにそろえた母の素足が垣間見えた。
もはや僕は、人間ではなく、暗い欲望にとりつかれた獣になった。
僕はベットに近づき、白足袋に包まれた母の足首をつかんだ。
その時になって初めて、母は顔を上げた。
そして母は、僕の目を見て、新たな涙をにじませた。
母は体を起こす気力も無いのか、ただ僕に顔を向けて、静かに涙をこぼした。
母は泣いていたけれど、そうやって母と目が合うのは、本当に久しぶりだった。

「春樹、、あなたはこんな時にも」
これまで絶対に僕の目を見なかった母が、僕に顔を向けてそう言った。
僕は、母に罵声を浴びせられるか、ひょっとしたら叩かれるのではないかと覚悟していただけに、その哀しげで弱々しい母の声は、僕の汚れた心さえも切なく揺さぶった。
母はつかまれた足首を初めて意識したように、僕の手から逃れようと、足をひねって斜めに引いた。
これまで僕に抱かれる時、無表情に体を投げ出していた母が、初めて僕を拒絶した。
たとえそれが哀しみに潤んだ瞳でも、感情的な目を向けて僕に抗った。

そんな母に、僕はなおさら欲情してしまった。
人形のような母ではない、生きた姿の母に、僕の性欲は刺激された。
喪服の裾をかき分けて、僕は太腿の合間に手を差し入れた。
「やめてっ、、」母は半身を起こして僕の手を押さえた。
必死に僕を拒んではいても、母の声は弱々しく、僕を押さえる手には力がこもっていなかった。

息子の一人を喪った哀しみに、憔悴する母の股を開くのは簡単だった。
和服の時はそうなのか、母は下着を身に着けていなかった。
僕が思いっきり母の股を広げると、黒と白の喪服が乱れて、その奥に見える母の陰部を妖しく彩った。
僕はそこに顔を埋めて、しつこく何度も舐め上げた。

「春樹やめて、、こんな時に、、」
母は抵抗しながら言ったけれど、その声には精気がなかった。
僕には、母の体は生きていても、心のどこかは死んでいるように思えた。
それでも構わなかった。

僕が舌で舐めるたびに、母は淫らに濡れていった。
膝を折りまげて割り広げた母の股間に、僕がペニスを突き立てた時、母は身をもんで「いやっ」と泣いた。
僕は渾身の力を込めて、何度も母を責めた。
母は首を左右に振って、ただ泣くばかりだった。
そんな母をうつ伏せにした僕は、喪服の裾をさらにまくり上げて、母の尻をつかんで持ち上げた。

膣からあふれ出た雫が、母の肛門までも濡らしていた。
「あっ、、」肛門に入れた時、母はいつもと違う声を出した。
度重なる肛交で、もう痛みは感じないはずなのに、母は辛そうに声を出した。
そして、「どうして、秋雄が見てるのに、、」と口走った。
精神が混乱しているのか、母はまったく別人になっていた。

僕が肛門を突くたびに、母は「あっ、」と声を出した。
痛みでも、苦しみでもない、もっと別な声だった。
僕は、母の体が壊れてしまいそうなほど、強く腰を打ちつけた。
それでも母は、「あっっ」と声を上げた。
性的な絶頂を母が迎えたのかどうか、それは分からなかったけれど、僕は、母の肛門に射精した。
初めて、何も付けないで肛門で交わったけれど、その匂いも、汚れも、僕はまったく気にならなかった。
終ったあと、喪服を乱して足を広げたまま、母はベッドに伏して泣いていた。
僕はそんな母に寄り添って、開いた足と、乱れた喪服を、元通りにしてあげた。

「私、妊娠してるのよ」
母は顔を上げて、僕にそう言った。
弟が死んだ夜、母は違う人になったように見えた。
母に見つめられて、僕は目をそらせてしまった。
僕のような男に、その事実を受けとめる勇気など、あるはずもなかった。

新学期が始まったある日、駅の改札口を出た僕に、あの男が近づいてきた。
男は、手に何かの雑誌を持っていた。
「おい坊ず、ちょっと来い」
男は、母のことも、そして僕のことも何も尋ねずに、駅の隅に僕を連れて行くと、手にした雑誌を開いた。
開かれたページを見ると、それは通販のカタログのようだった。

『ミセスのための春物コレクション』と題された写真が載っていた。
男は、もう一つ手にしていたものを開いた。
見るとそれは雑誌ではなく、有名な百貨店の婦人用パンフレットだった。
『キャリアな貴女の個性を、、』と綴られた宣伝コピーの横に、タイトなスーツを着た女性の写真が載せてあった。
その二つの写真には、着ている服や髪型は違っても、同じモデルの女性が写っていた。
こういう写真だからなのか、写っている女性はとても綺麗で、上品な人に見えた。
年齢は、僕の母と同じくらいだった。
「どうだ坊ず、この女」
男はそう言うと、あの無気味な笑いを顔に浮かべた。

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